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「なんで…」 コイツが此処に…言い掛けて、オレはハッとする。 直近の議会で、グリモアが良からぬ事を企んでいるから注意しろって────今更そのことを思い出し、舌打ちする。 でもまさか、こんなところで出会すなんて… 「神子が男だなどと、最初こそ疑いもしたが…」 ククッと卑しい笑みを湛えるグリモアは、我が物顔で続ける。 「漸く神子としての力を、開花させたそうではないか…とはいえ、まだまだ使い物にはならぬようだがな?」 「…………」 嫌みな言動に吐き気がして、オレは顔を強ばらせる。 そんなオレを見て気を良くするグリモアは、満足そうに嘲笑った。 「心配せずとも…消そうなどとは、もう思っておらぬよ。」 今までは命を狙ってたのかと悪寒が走り、背筋が凍り付く。 だったら何のためにこんな卑怯な手を… 意味深なグリモアの言葉に振り回されるオレは、ただただ疑心暗鬼するばかりだった。 「その前に…を、しておかねばな。」 ニタリと一歩踏み出すグリモアに、オレは身体を挺して立ち塞がる。しかし… 「約束はっ…孤児院を、助けてくれるって…」 怯えながら、少年が必死に叫び訴えたが… こういう人間が口約束を守るだなんて、まずあり得ないと思う…から。 「…始末しろ。」 神子は傷付けるなよと、グリモアが言い放った瞬間。闇に紛れていた黒装束の男が5人、ヤツの背後から音も無く現れる。 オレはなんとなく、こういう展開が読めていたから… 「走って…!!」 戸の前で両手を広げて、後ろの少年達に思い切り叫ぶ。彼らは一瞬、戸惑っていたけれど… 「早く逃げるんだッ!!」 怒鳴りつけるよう声を張り上げれば。 少年達は泣きながらも、すぐさま背を向け走り出した。 「早く追え!守護騎士のガキ共を呼ばれたら面倒だぞ!」 グリモアが命令すると同時に、黒装束の内2人が前へと躍り出て。オレの包囲網は難なく崩され、すぐさま少年らを追跡し始める。 オレも後を追おうとしたのだけど────── 「お前は行かせぬ。」 「ッ……!!」 グリモアにガシリと腕を捕まれて。 「お前達は外を見張っていろ。」 言い放つと残った黒装束達は、すぐさま外に消え。 オレはグリモアに腕を取られたまま、小屋の奥へと引きずり込まれてしまった。 オッサンだと思って油断したけど…。 グリモアは腐ってもフェレスティナの住人で、貴族だから。一般教養として武芸も嗜んでいるはず…。 軟弱なオレでは、力で及ぶわけがない。

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