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「はな、せッ…!」 「抵抗するでない。」 床に叩きつけるよう、オレを押し倒してきたグリモアが馬乗りになってきて。 抗おうものなら、平手打ちを食らわされ、無理矢理腕を拘束される。 還暦くらいは軽く超えてそうなのに、腕の縛めは予想以上に強いため。オレはただ睨み返すことしか出来ないから…悔しい。 「ふん、神子は治癒魔法の類いでこそ、奇跡の力と賞されるが…やはり筋力は、人並み以下なのだな。」 まるで女子(おなご)のようではないかと…嫌味ったらしく笑み、これ見よがしに片手だけで腕を床へと押さえつけられる。 そうして今度は反対のそれで、ぬるりと頬を撫でてきやがるもんだから…。拒絶反応起こした全身から、ゾワゾワと悪寒が走った。 「肌も白く…見てくれもまあ、申し分ないな…」 顎を乱暴に掴み、値踏みするような視線を浴びせてくるグリモア。瞬間、オレの中で警笛が鳴り響く。 「男だとて問題はなかろう?異界の神子の身体は、さて…どれほど悦いのだろうな?」 ああ…オレは知っている。 この欲にまみれた醜い目が、何を意味するのかを。 「やめ…ろッ…!」 どんなに本気で踠こうとも、グリモアの手はびくともしなくて。力の差に、奥歯を噛み締める。 戒めとしてグリモアは、また容赦なく平手を打ち。ギチリと腕に爪を食い込ませてくるから…オレは耐え切れず悲鳴を漏らした。 「神子と(つが)った者は、様々な恩恵を授かるというからな…」 さすがに不老不死とまではいかないが、身体能力の向上など…その力は絶大であるのに変わりはなく。 何より神子そのものを手に入れるメリットの方が、遥かに有用だ。 だからこそ、こういう輩が後を絶たない現実が、歯痒い… 「ふは、抵抗とは(うい)な。生娘でもあるまいに。」 「くッ…そ…」 こうしてる間にも、グリモアは手を止めることなく。オレの服を、無惨に引き裂いていく。 「ああッ…!」 「ほお…なかなか筋が良いではないか…」 露にされた上半身に指を這わされて。嫌悪する身体は、拒絶してビクリと仰け反る。 それに気を良くするグリモアは、恍惚とオレを見下ろしながら…なんとも下卑た表情を浮かべていた。 「お前、なんかにッ…」 犯されるなんてクソ食らえだ。 神子の力だって、誰が与えてやるもんか… 虚勢を張って吠えてみても、見下すコイツは鼻先でオレをあしらい。 「ふん…神子と云えど、自ら力を行使出来ぬような未熟者のくせに。」 にわか仕込みのはったりが、通じるはずもなく。グリモアは舌舐りをしながら、オレへと顔を近付けてきた。生ぬるい息遣いに、オレは堪らず顔を叛ける。 すると過去のトラウマが、この一瞬で蘇り…恐怖で身体が勝手に震え始めた。 愛もへったくれもない、ただただ私利私欲のため。神子だからというだけで、男のオレでさえ躊躇いも無く抱こうという、呆れた思考回路。 それだけに神子の奇跡とは、至高の領域なんだろうが…オレにとっては、迷惑極まりない話でしかないんだ。

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