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(ルーファス…) こんな時に浮かぶのは、やはり愛しい人の存在。 アイツなら、こんな酷いことはしないし。 寧ろ触れる手は全部が優しくて、温かくて… いつもオレを包み込んでくれる。 「絶対、お前なんかにはッ…」 オレの身体に触れて良いのは、お前じゃない。 触れて欲しいと思うのは。 この世界でただひとり…だけだから。 「別にお前の意思など要らぬ。」 逃げられないと解っていて、蔑んだ目を向けるグリモアは。あくまで独尊的な物言いで以て、吐き捨てる。 「単純だ、ただ奪えば良いだけのこと…」 お前はまだ…────なのだろう? 何を根拠にしているのか。 グリモアはオレの反応を楽しみながら、胸の方に指を滑らせてくるから。 肌はゾワリと粟立ち、屈辱を受けるオレは…つい漏れそうになる声を、必死で噛み殺した。 「守護騎士達を随分と手懐けていたから、もしやとも思うたが…奴等に神子の恩恵は、まだ授けられておらぬようだったから…な?」 「ルー達を、お前なんかと一緒にするなッ…!」 本気で(もが)こうとも、この世界のオレはなんとも無力で。こんな奴にさえ抗えない自分に、悔し涙が溢れる。 泣き顔なんて見せたら、グリモアの思うツボ…解ってはいたけど耐えられなくて。 悪あがきと知りながらも。見下ろしてくるグリモアを、思い切り睨み付けてやった。 「男のくせに、妙な色気を振り撒きよって…それも神子の能力(ちから)とやらか?」 「ちがっ───…ぅああッ…!」 顔を覗き込むグリモアから顔を逸らすと…首筋の匂いを嗅がれ、べろりと舐められる。 舌の生々しい感触が、あまりに気持ち悪くて。オレは堪らず悲鳴を上げてしまった。 「啼き声も、まるで雌のようだな…」 股がるグリモアの下半身が猛っているのに気付き、恐怖する。 嫌だ…コイツ気持ち悪い… 欲に溺れると、人間(ひと)はこんな化物に成り果ててしまうのか。 オレに向け興奮を露にしていくケダモノは、同じ人間であるはずなのに。 今まで出会った魔族や、どの魔物なんかよりも… 目の前のこの人間が。 今は何よりも恐ろしいとさえ感じた。 (逃げなきゃ…!) 本能がそう、訴えかけている。 このままじゃ本当に食われてしまう。 なんとかして切り抜けなきゃ、誰か… 頭の中で思考を巡らせていたら、やっぱりアイツの名前が一番に浮かんできて──── 「勝手をされては困りますねぇ。」 「ぐ、はッ…!!」 しかしそこへ、おっとりとした…あまりに場違いな声音が耳へと届き。同時に、オレへとのし掛かっていたグリモアが呻き声を上げる。 「…な……」 力なく崩れたグリモアを、なんとか押し退け…その声の主を目の当たりにしたオレは。 愕然とし、目を疑った。

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