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⑫
(ルーファス…)
こんな時に浮かぶのは、やはり愛しい人の存在。
アイツなら、こんな酷いことはしないし。
寧ろ触れる手は全部が優しくて、温かくて…
いつもオレを包み込んでくれる。
「絶対、お前なんかにはッ…」
オレの身体に触れて良いのは、お前じゃない。
触れて欲しいと思うのは。
この世界でただひとり…アイツだけだから。
「別にお前の意思など要らぬ。」
逃げられないと解っていて、蔑んだ目を向けるグリモアは。あくまで独尊的な物言いで以て、吐き捨てる。
「単純だ、ただ奪えば良いだけのこと…」
お前はまだ…────清いままなのだろう?
何を根拠にしているのか。
グリモアはオレの反応を楽しみながら、胸の方に指を滑らせてくるから。
肌はゾワリと粟立ち、屈辱を受けるオレは…つい漏れそうになる声を、必死で噛み殺した。
「守護騎士達を随分と手懐けていたから、もしやとも思うたが…奴等に神子の恩恵は、まだ授けられておらぬようだったから…な?」
「ルー達を、お前なんかと一緒にするなッ…!」
本気で踠 こうとも、この世界のオレはなんとも無力で。こんな奴にさえ抗えない自分に、悔し涙が溢れる。
泣き顔なんて見せたら、グリモアの思うツボ…解ってはいたけど耐えられなくて。
悪あがきと知りながらも。見下ろしてくるグリモアを、思い切り睨み付けてやった。
「男のくせに、妙な色気を振り撒きよって…それも神子の能力 とやらか?」
「ちがっ───…ぅああッ…!」
顔を覗き込むグリモアから顔を逸らすと…首筋の匂いを嗅がれ、べろりと舐められる。
舌の生々しい感触が、あまりに気持ち悪くて。オレは堪らず悲鳴を上げてしまった。
「啼き声も、まるで雌のようだな…」
股がるグリモアの下半身が猛っているのに気付き、恐怖する。
嫌だ…コイツ気持ち悪い…
欲に溺れると、人間 はこんな化物に成り果ててしまうのか。
オレに向け興奮を露にしていくケダモノは、同じ人間であるはずなのに。
今まで出会った魔族や、どの魔物なんかよりも…
目の前のこの人間が。
今は何よりも恐ろしいとさえ感じた。
(逃げなきゃ…!)
本能がそう、訴えかけている。
このままじゃ本当に食われてしまう。
なんとかして切り抜けなきゃ、誰か…
頭の中で思考を巡らせていたら、やっぱりアイツの名前が一番に浮かんできて────
「勝手をされては困りますねぇ。」
「ぐ、はッ…!!」
しかしそこへ、おっとりとした…あまりに場違いな声音が耳へと届き。同時に、オレへとのし掛かっていたグリモアが呻き声を上げる。
「…な……」
力なく崩れたグリモアを、なんとか押し退け…その声の主を目の当たりにしたオレは。
愕然とし、目を疑った。
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