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⑬
「ぐッ…きさ、ま…」
「神子を始末するという、約束でしたのに…」
苦しげに踞 るグリモアの胸元からは、痛々しくも真っ赤な血が滴り落ち…ぼたぼたと、床を一気に染め上げる。
その苦痛を与えたのは…
「ムー、バ…?」
「神子に名を覚えて頂けるとは…光栄ですね。」
グリモア以上に不気味な笑みを湛えた、魔族の男……ムーバの仕業だった。
「裏切っ、たなッ…!」
両膝を着き、怒りの形相で叫ぶグリモアは。ゴホゴホと咳き込んで、口から血を吐き出す。
その姿を見下ろすムーバは、悪びれた様子もなく冷たく微笑んだ。
「何を言うかと思えば…貴方が神子を差し出すというから、私はお手伝いして差し上げましたのに。」
“おかげであの時は痛い目に遭いましたが…”
…と、ちらりとオレを一瞥するムーバ。最初はその意味が解らなかったけど…
「まさか……森の…」
ハッとして気付く。
確かに、あんなタイミングで魔族が襲撃してくるなんて…。よくよく考えてみれば、辻褄が合うじゃないか。
「さすがは神子、勘がよろしい…この男が色々と情報を提供してくれたのですよ。」
醜いものでしょう?
そう付け加え、グリモアに向けゴミでも見るかのような視線を送る。
「前回は守護騎士も揃い多勢に無勢。しかも全くの無能と聞いていた貴方が、予想外の力をみせましたからねぇ…。本日もグリモアが、根回しするからと頼んできたので。仕方なく手助けして差し上げることにしたのですが。」
ペラペラと必要以上に饒舌なムーバ。
その含んだ物言いに、オレは後退りしながら考える。
もしかしたら、ルーやアシュ、ヴィンに急用が入ったのも。宮殿からの使いと称した御者が屋敷に来たのも…偶然じゃなかったのかもしれない。
「まあ、私も愚かではありませんから。こうして早めに来てみれば…案の定、彼が神子をつまみ食いしていたというわけですよ。」
「ぐああッ…!!」
云うや否や、グリモアの傷口を抉るよう踏みつけるムーバは。人為らざる形相で、残酷な言葉を下す。
「もとより人間と馴れ合う気など、ありませんからねぇ。神子も手に入ったことですし…」
貴方にはご褒美を差し上げましょう、と。
ニタリと口角を上げるムーバは、鋭い刃のような魔力を形成し手に纏わせると…
「ヒィッ…や、め…」
「ッ……!!」
オレの目の前で、躊躇いなど欠片も見せず。慈悲も無く、まるで罪人でも処刑するかのように。
グリモアの首を……その手で切り落とした。
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