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⑯
「る、ぅ……ルー…!!」
やっぱり現れてくれた、その人は。
オレの愛して止まない…オレだけの、騎士様。
「セツに…触るなッ…!!」
小屋の中へと飛び込んできたと同時に、状況を把握するルーファスは。すぐさま剣を抜き放ち、地を蹴って叫ぶ。
余りの速さに、オレの視覚では、殆ど追い付けない。
「くッ…!」
それはムーバも同様に。
元々肉弾戦向きではないという魔族は、ルーが放つ一撃には出遅れてしまい。回避を試みるも…勢い余って床へと倒れ込んでしまった。
切り裂かれた傷口から、鮮血が滴る。
「守護騎士は、足止めしておいたはずですが…」
一緒に来たのは、最年少の2人だけ。
不在だったはずのルーの出現に。しくじったのかと、床に転がる骸を睨みながら…ムーバは独り言みたく舌打ちした。
やはり…ルー達の不自然な召集は、グリモアの仕業だったみたいだ。
「ルー…!」
ムーバの術が解けたのか、動けることに気が付いて。オレはなんとか起き上がり、ルーの名を叫ぶ。
今のオレは纏う着衣も、ほとんどが引き裂かれ…素肌を晒し、見るに絶えない無様な状態。身体中どこもかしこも痛くて、動くのも儘ならなかった。
そんなオレを改めて認めたルーは、今まで見たこともないような…酷く冷たい色を、その緑眼に宿して。
「セツ…表に出ていろ…」
静かに、けど明らかな怒りを滲ませ…有無を言わせぬ声音でオレへと言い放つと。ムーバへと切っ先を向けた。
怒りに豹変するルーに。オレは一抹の不安を覚えたが…言われた通り、ヨロヨロしながらも。なんとか這いつくばって外へと向かった。
「渡しませんよ…」
「させるものか…!」
阻止すべく、ムーバが先に動き。…にも関わらず、後に続くルーのスピードが、それを上回りオレとの間に立ち塞がる。
「守護騎士とは、忌々しい存在ですね…」
形勢が崩され、いつもの冷静さは何処へやら。
ムーバはルーを睨み付け、イライラとして殺気立つ。
「セツを傷付ける者を、俺は絶対に許さない…」
対峙するルーの目にも、如実に怒りが燃え盛り。
いつもの穏やかさが嘘みたいに…
向けるその刃の先に。確かな殺意を、滲ませていた。
「私とて、この機を逃す訳にはいかないのですよ…」
焦れたよう口走るムーバが、物欲しげにオレへと視線を這わせれば。ルーファスが遮るよう歩み出る。
「神子の力さえ─────…あれば!!」
踞 るようにして何かをムーバが呟いた瞬間…隠していたその手の内から、禍々しい気配を感じ。
刹那、魔力の塊が生み出される。
「ルー…!!」
魔力を溜めた手は不意打ちにも、ルーへと繰り出され。避けるより早く、目前で解き放たれてしまい…
それは見る間に黒炎を上げ、瞬く間に燃え広がると…ルーの全身を、秒で覆い尽くしていった。
堪らずオレは悲鳴を上げる。
「身体を動かすのは、性分じゃないのですがかね…」
魔法ならば得意だと云わんばかりに、ムーバは自らの放った炎で燃え盛るルーを眺め。勝ち誇ったよう高笑う。
オレは泣き叫びながら、ルーの元へ這い寄ろうとしたのだけれど─────
「来るな、セツ!!」
「…ッ……!」
轟々と燃ゆる黒炎から、はっきりとした声が聞こえ。
目を凝らせば…陽炎が遮る中、堂々と佇むルーの背中が…確かにそこに、存在していた。
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