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「る、ぅ……ルー…!!」 やっぱり現れてくれた、その人は。 オレの愛して止まない…オレだけの、騎士様。 「セツに…触るなッ…!!」 小屋の中へと飛び込んできたと同時に、状況を把握するルーファスは。すぐさま剣を抜き放ち、地を蹴って叫ぶ。 余りの速さに、オレの視覚では、殆ど追い付けない。 「くッ…!」 それはムーバも同様に。 元々肉弾戦向きではないという魔族は、ルーが放つ一撃には出遅れてしまい。回避を試みるも…勢い余って床へと倒れ込んでしまった。 切り裂かれた傷口から、鮮血が滴る。 「守護騎士は、足止めしておいたはずですが…」 一緒に来たのは、最年少の2人だけ。 不在だったはずのルーの出現に。しくじったのかと、床に転がる骸を睨みながら…ムーバは独り言みたく舌打ちした。 やはり…ルー達の不自然な召集は、グリモアの仕業だったみたいだ。 「ルー…!」 ムーバの術が解けたのか、動けることに気が付いて。オレはなんとか起き上がり、ルーの名を叫ぶ。 今のオレは纏う着衣も、ほとんどが引き裂かれ…素肌を晒し、見るに絶えない無様な状態。身体中どこもかしこも痛くて、動くのも儘ならなかった。 そんなオレを改めて認めたルーは、今まで見たこともないような…酷く冷たい色を、その緑眼に宿して。 「セツ…表に出ていろ…」 静かに、けど明らかな怒りを滲ませ…有無を言わせぬ声音でオレへと言い放つと。ムーバへと切っ先を向けた。 怒りに豹変するルーに。オレは一抹の不安を覚えたが…言われた通り、ヨロヨロしながらも。なんとか這いつくばって外へと向かった。 「渡しませんよ…」 「させるものか…!」 阻止すべく、ムーバが先に動き。…にも関わらず、後に続くルーのスピードが、それを上回りオレとの間に立ち塞がる。 「守護騎士とは、忌々しい存在ですね…」 形勢が崩され、いつもの冷静さは何処へやら。 ムーバはルーを睨み付け、イライラとして殺気立つ。 「セツを傷付ける者を、は絶対に許さない…」 対峙するルーの目にも、如実に怒りが燃え盛り。 いつもの穏やかさが嘘みたいに… 向けるその刃の先に。確かな殺意を、滲ませていた。 「私とて、この機を逃す訳にはいかないのですよ…」 焦れたよう口走るムーバが、物欲しげにオレへと視線を這わせれば。ルーファスが遮るよう歩み出る。 「神子の力さえ─────…あれば!!」 (うずくま)るようにして何かをムーバが呟いた瞬間…隠していたその手の内から、禍々しい気配を感じ。 刹那、魔力の塊が生み出される。 「ルー…!!」 魔力を溜めた手は不意打ちにも、ルーへと繰り出され。避けるより早く、目前で解き放たれてしまい… それは見る間に黒炎を上げ、瞬く間に燃え広がると…ルーの全身を、秒で覆い尽くしていった。 堪らずオレは悲鳴を上げる。 「身体を動かすのは、性分じゃないのですがかね…」 魔法ならば得意だと云わんばかりに、ムーバは自らの放った炎で燃え盛るルーを眺め。勝ち誇ったよう高笑う。 オレは泣き叫びながら、ルーの元へ這い寄ろうとしたのだけれど───── 「来るな、セツ!!」 「…ッ……!」 轟々と燃ゆる黒炎から、はっきりとした声が聞こえ。 目を凝らせば…陽炎が遮る中、堂々と佇むルーの背中が…確かにそこに、存在していた。

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