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「るぅ!ルー…!!」 炎に焼かれるルーの身体は、倒れるわけでもなく…声も上げず、また微動だにもせず。未だ黒炎は、その身を蝕もうと…炎々燃え盛る。 ただ熱気は離れているオレにさえも、容赦なく伝わってきていたから。 見ていることしか出来ないオレは…ただただ地にへたり込んで泣き崩れるばかり。 「はっ、強がりな…神子にでも、救いを求めれば良いものを。」 奇襲とか、卑怯な手しか使えないクセに。ムーバはルーを見下し…余裕げに嘲け笑う。 「ルー!るうっ…!!」 反して絶望にうちひしがれるオレは、黙って見てることしか叶わず… どうしよう…このままじゃ、ルーが───── 「泣くな、セツ…」 その時、いつもの優しい声が耳に届けられ。 弾かれ見上げたら…炎の中、オレを振り返るルーの瞳とぶつかる。 目が合えば、ルーはふわりと微笑み掛けてきて…。 オレは驚きながらも。その笑顔につい、心奪われてしまうから…思わず息を飲み込んだ。 だってルーは未だ黒炎の真っ只中。 その身をずっと、焼かれているはずなのに… なのに、なんで…笑ってくれるんだろう? 「この程度の力で、俺は屈したりはしない。」 「な、に…?」 魔族の魔法をまともに食らい、焼かれ続けているにも関わらず。ルーの様子は何も変わらなくて。 むしろその眼は相反し、煌々と光に満ち溢れている。 「馬鹿なッ…」 よほど自信があったのか。 面食らうムーバは、あからさま顔を引き攣らせ、冷や汗を垂らし。 「ならば、その身で確かめろ…」 剣を正面で構え、小さく息を吸うルーファス。 それが吐き出された瞬間、 「はぁぁッ…!」 ルーは力強く咆哮し。 彼の全身から勢い良く、一陣の風が舞い上がった。 「なッ…!!」 その風はルーを軸に、柱となって炎を巻き込み。 何か大きく弾くような音がしたかと思うと…瞬く間にして、黒炎を消し飛ばしてしまう。 解放されたルーの身体を見やれば。 炎に焼かれていた痕跡など、一切見当たらなかった。 「く、そ…がッ…!!」 驚く暇も無くムーバが声を荒げ、どす黒い火球を次々生み出すと。次には闇雲に、それらを乱射し始める。 「ひゃッ…!」 ぶつかる─────… 思わず目を閉じ、(うずくま)ったけど…痛みも衝撃も襲ってくることはなく。恐る恐る目を開けた先には、揺らめく風が壁と成り、オレを守っていて…。 ムーバの放った火球を、全て打ち消していた。 「すご、い…」 その光景を、オレは茫然と眺める。 しかしムーバが攻撃の手を止めることはなく… 狂気に乱れる魔族は、更に魔力を増幅させて。業火の渦を作り出せば、躊躇無くルーへと投げ放つ。 「無駄だッ…!」 それは水の魔力を帯びたルーの剣により、一刀両断されるのだけど… 「死ね…神子…!!」 追い詰められたムーバはその僅かな隙に、こちらに狙いを切り替えると。魔力の刃を手に、歪な形相を携えながら…オレへと仕掛けてきやがった。 けれど────── 「させるかッ…!!」 「…あ……」 魔族の最後の悪あがきは… それさえも、先読みしていたルーにより。あっさりと…阻まれてしまい。 「ぐッ───…ああああッ…!!!」 目前まで迫るも、ルーが放った風の衝撃波をまともに食らうムーバは… 断末魔を轟かせながら、地に伏されるのだった。

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