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⑰
「るぅ!ルー…!!」
炎に焼かれるルーの身体は、倒れるわけでもなく…声も上げず、また微動だにもせず。未だ黒炎は、その身を蝕もうと…炎々燃え盛る。
ただ熱気は離れているオレにさえも、容赦なく伝わってきていたから。
見ていることしか出来ないオレは…ただただ地にへたり込んで泣き崩れるばかり。
「はっ、強がりな…神子にでも、救いを求めれば良いものを。」
奇襲とか、卑怯な手しか使えないクセに。ムーバはルーを見下し…余裕げに嘲け笑う。
「ルー!るうっ…!!」
反して絶望にうちひしがれるオレは、黙って見てることしか叶わず…
どうしよう…このままじゃ、ルーが─────
「泣くな、セツ…」
その時、いつもの優しい声が耳に届けられ。
弾かれ見上げたら…炎の中、オレを振り返るルーの瞳とぶつかる。
目が合えば、ルーはふわりと微笑み掛けてきて…。
オレは驚きながらも。その笑顔につい、心奪われてしまうから…思わず息を飲み込んだ。
だってルーは未だ黒炎の真っ只中。
その身をずっと、焼かれているはずなのに…
なのに、なんで…笑ってくれるんだろう?
「この程度の力で、俺は屈したりはしない。」
「な、に…?」
魔族の魔法をまともに食らい、焼かれ続けているにも関わらず。ルーの様子は何も変わらなくて。
むしろその眼は相反し、煌々と光に満ち溢れている。
「馬鹿なッ…」
よほど自信があったのか。
面食らうムーバは、あからさま顔を引き攣らせ、冷や汗を垂らし。
「ならば、その身で確かめろ…」
剣を正面で構え、小さく息を吸うルーファス。
それが吐き出された瞬間、
「はぁぁッ…!」
ルーは力強く咆哮し。
彼の全身から勢い良く、一陣の風が舞い上がった。
「なッ…!!」
その風はルーを軸に、柱となって炎を巻き込み。
何か大きく弾くような音がしたかと思うと…瞬く間にして、黒炎を消し飛ばしてしまう。
解放されたルーの身体を見やれば。
炎に焼かれていた痕跡など、一切見当たらなかった。
「く、そ…がッ…!!」
驚く暇も無くムーバが声を荒げ、どす黒い火球を次々生み出すと。次には闇雲に、それらを乱射し始める。
「ひゃッ…!」
ぶつかる─────…
思わず目を閉じ、踞 ったけど…痛みも衝撃も襲ってくることはなく。恐る恐る目を開けた先には、揺らめく風が壁と成り、オレを守っていて…。
ムーバの放った火球を、全て打ち消していた。
「すご、い…」
その光景を、オレは茫然と眺める。
しかしムーバが攻撃の手を止めることはなく…
狂気に乱れる魔族は、更に魔力を増幅させて。業火の渦を作り出せば、躊躇無くルーへと投げ放つ。
「無駄だッ…!」
それは水の魔力を帯びたルーの剣により、一刀両断されるのだけど…
「死ね…神子…!!」
追い詰められたムーバはその僅かな隙に、こちらに狙いを切り替えると。魔力の刃を手に、歪な形相を携えながら…オレへと仕掛けてきやがった。
けれど──────
「させるかッ…!!」
「…あ……」
魔族の最後の悪あがきは…
それさえも、先読みしていたルーにより。あっさりと…阻まれてしまい。
「ぐッ───…ああああッ…!!!」
目前まで迫るも、ルーが放った風の衝撃波をまともに食らうムーバは…
断末魔を轟かせながら、地に伏されるのだった。
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