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「セツ…」 ムーバが完全に沈黙したのを見計らい、ルーがオレへと駆け寄る。 「…ぁ…ッ…」 虚ろな思考でへたり込んでいたオレは。 ルーの影に、一瞬だけ肩を震わせてしまったけれど… 「る…る、う…ッ…!」 見上げた先、大好きな彼の顔を捉えられたなら。オレは自ら手を伸ばし…その胸へと身を委ねていた。 「るぅッ…ルーッ…!」 「すまない、セツ…何度もお前を、危険に晒してしまって…」 不甲斐ないと、ルーはオレを抱き締める。 耳元に擦り寄る声音は、まるで泣いてるかのように切なく震えていて。 オレも応えて腕を回し…力いっぱいしがみついた。 「ちが、ごめっ…オレが悪いの、にッ…!!」 ルーは悪くないのに。 オレはいつもお前を悲しませ、謝らせるばかりで… 罪悪感に駆られるオレは。ごめんなさいと何度も詫びながら、嗚咽を吐いて泣きじゃくる。 「セツ…」 存在を確かめるかのよう、強く抱き締められるのに。ルーファスの腕は全然痛くならないし、とても温かく…何より優しい。 グリモアもムーバも、気持ち悪いばかりで恐怖しか生み出さなかったのに。 やっぱりルーだけは、特別なんだ…。 「オレ、いや…だッ…アイツらに触られ、てッ…痛くて、怖くてッ…」 死にそうだったんだと、咽び泣いて訴えれば。ルーは両手でそっと、オレの頬を包み込んだ。 「辛かったな…」 「う、んッ…」 グリモアに打たれて腫れた頬と、血が滲む手首を労るように触れられて。こんな時なのに、不謹慎にも身体は甘い熱を帯びていく。 なんでだろう…むしろこんな状態だからかな? あまりにそれが心地よくて… もっと触れられたいなんて思ってしまうから。 「ルーのは、やじゃない…よッ…」 そんな下心を、本音では隠したくないからか… オレは甘えるように、紡ぐ。 「ルーのは、優しいし…気持ち良いか、らッ…」 「セ、ツ…」 “もっと触って…?” 頭ん中はもうぐちゃぐちゃで。 さっきまでは、本当に死にそうだったんだ。 けど今は目の前に大好きなルーがいて。 そしたらもう、抗えるわけがないんだから… 自分でもビックリするくらい、熱っぽい声で。ルーの視線を必死に縫い止める。 ぼやける視界に映るルーは、一瞬困惑したよう目をさ迷わせたが… 「セツ…」 「…ぁ…っ…」 以前触れたみたく、ルーの指先が頬から耳朶へと滑らされ。掠めたそこから、ぴり…と電気が走る。 いつもと変わらないようで…けれどいつもより明確な色を孕んだ愛撫に。オレは意図せずして僅かに開いたままの唇から、上擦った声を…漏らしてしまった。 それがまるで女の子みたいに甘ったるくて、恥ずかしい… 「ルー…んっ…」 じんわり滲む目を、うっすら開け見上げたら…ルーの火照った瞳に、思わず吸い込まれそうになる。 ううん、きっとこれは例えとかじゃなくて… 「ン…」 気付いたら本当に。 オレとルーとの距離は…無くなっていたんだ。

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