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⑱
「セツ…」
ムーバが完全に沈黙したのを見計らい、ルーがオレへと駆け寄る。
「…ぁ…ッ…」
虚ろな思考でへたり込んでいたオレは。
ルーの影に、一瞬だけ肩を震わせてしまったけれど…
「る…る、う…ッ…!」
見上げた先、大好きな彼の顔を捉えられたなら。オレは自ら手を伸ばし…その胸へと身を委ねていた。
「るぅッ…ルーッ…!」
「すまない、セツ…何度もお前を、危険に晒してしまって…」
不甲斐ないと、ルーはオレを抱き締める。
耳元に擦り寄る声音は、まるで泣いてるかのように切なく震えていて。
オレも応えて腕を回し…力いっぱいしがみついた。
「ちが、ごめっ…オレが悪いの、にッ…!!」
ルーは悪くないのに。
オレはいつもお前を悲しませ、謝らせるばかりで…
罪悪感に駆られるオレは。ごめんなさいと何度も詫びながら、嗚咽を吐いて泣きじゃくる。
「セツ…」
存在を確かめるかのよう、強く抱き締められるのに。ルーファスの腕は全然痛くならないし、とても温かく…何より優しい。
グリモアもムーバも、気持ち悪いばかりで恐怖しか生み出さなかったのに。
やっぱりルーだけは、特別なんだ…。
「オレ、いや…だッ…アイツらに触られ、てッ…痛くて、怖くてッ…」
死にそうだったんだと、咽び泣いて訴えれば。ルーは両手でそっと、オレの頬を包み込んだ。
「辛かったな…」
「う、んッ…」
グリモアに打たれて腫れた頬と、血が滲む手首を労るように触れられて。こんな時なのに、不謹慎にも身体は甘い熱を帯びていく。
なんでだろう…むしろこんな状態だからかな?
あまりにそれが心地よくて…
もっと触れられたいなんて思ってしまうから。
「ルーのは、やじゃない…よッ…」
そんな下心を、本音では隠したくないからか…
オレは甘えるように、紡ぐ。
「ルーのは、優しいし…気持ち良いか、らッ…」
「セ、ツ…」
“もっと触って…?”
頭ん中はもうぐちゃぐちゃで。
さっきまでは、本当に死にそうだったんだ。
けど今は目の前に大好きなルーがいて。
そしたらもう、抗えるわけがないんだから…
自分でもビックリするくらい、熱っぽい声で。ルーの視線を必死に縫い止める。
ぼやける視界に映るルーは、一瞬困惑したよう目をさ迷わせたが…
「セツ…」
「…ぁ…っ…」
以前触れたみたく、ルーの指先が頬から耳朶へと滑らされ。掠めたそこから、ぴり…と電気が走る。
いつもと変わらないようで…けれどいつもより明確な色を孕んだ愛撫に。オレは意図せずして僅かに開いたままの唇から、上擦った声を…漏らしてしまった。
それがまるで女の子みたいに甘ったるくて、恥ずかしい…
「ルー…んっ…」
じんわり滲む目を、うっすら開け見上げたら…ルーの火照った瞳に、思わず吸い込まれそうになる。
ううん、きっとこれは例えとかじゃなくて…
「ン…」
気付いたら本当に。
オレとルーとの距離は…無くなっていたんだ。
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