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ep. …turning point
いつか見たゲームの一場面が、枠の中で再生される。
『私は貴女を─────』
愛している、と。
曖昧に顔が伏せられた主人公の少女の手に、誓いのキスを落とす…そんな一枚のスチル絵が映し出され。
ウィンドウの中に流れる文字と音声によって、台詞が紡がれる。
『ルーファス、私も貴方のことのことが────』
ハッピーエンドだと思っていたそれは、全く逆のもので。結ばれたはずのふたりはいずれ、過酷な運命を迎えることとなる。
守護騎士ルーファスは、神子を守って命を落とし…
死を受け入れられなかった神子もまた、自身の役割も忘れ悲しみを胸に殻へと閉じ籠ってしまい。
そうして世界は魔族の手に落ち、混沌の時代が訪れ。
視界は暗転…最悪の結末を表す英文字が、虚しくも画面中央へと…映し出されるのだった。
選択肢ひとつ違 えれば…
幸せな未来は永劫閉ざされ、大切なものは何ひとつ残らない。
そんな数あるエンディングのひとつを、何故今になって思い出すのだろうと…
オレは微睡みの中、考える。
告白して両想いになった瞬間に突き付けられる、悪夢のようなシナリオ。
こんな夢さえ見なければ、もうゲームのことなんて忘れていたのに。
なんで…
(ダメ、なのかな…)
グリモアとムーバに襲われて。
約束通りに助けてくれたルーファス。
思いがけず、キス…までしてしまった。
もしあのまま、気を失わずにいたなら。
きっとオレは想いを隠し切れず、この気持ちを全てアイツに打ち明けていただろう。
それに、アイツだって…
(これは、神子の…)
予知夢みたいなものだろうか?
もしこれが、この先の行く末を案じたものならば。
オレのこの想いは、どうすればいいんだ…
目が覚めて朝になれば、アイツは目の前にいるはず。そしたらきっと、キスの意味を…明かさなきゃいけなくなる。
オレが何も言わなくても、
アイツから想いを告げられてしまったら?
そうなのだと、お互いが認めてしまったら…
オレがあの主人公の少女と同じ、真の神子だというなら─────
「はッ…ぁ…」
薄暗い部屋の中。
真夜中なのか…幸運にも人の気配はなく、辺りは不気味に静まり返っている。
無理矢理に覚醒した所為か、オレは肩で息をし…堪らずシーツを握り締めた。
首に掛けたままの指輪が、カチリと虚しい音を立てる。
「これも…」
ひとつの未来であるというなら。
オレは絶対に…
(言えないんだ…)
あんなキスまでねだっておいて、今更どうするんだと自嘲する。
それでもダメなんだ。
オレがもしソレを口にして…
ルーファスが、受け入れてしまったら。
「う…ッ…」
頭を抱え、嗚咽を押し殺すも。
涙は止められず、絶望がオレを蝕む。
「こんなの、ないだろッ…」
大好きなんだ、どうしようもなく。
ただそれだけなのに。
「好きなの、にっ…」
あれだけひた隠しにしてきた言葉でさえ、今ではこうして簡単に紡げるのに。
すんなりと吐き出した本音は、
アイツの元へは届かない…いや、届けられない。
そんなことをしてしまったら、アイツは…
「る、うッ…」
こんな時ほど傍にいて、抱き締めて欲しいのに。
その腕は此処には無く、空回る身体は虚しく冷えていくだけ。
オレはそんな我が儘を、心の奥底に押し込めて。
ただ独り、闇夜に溶ける静寂の中を…ひたすら涙に明け暮れた。
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