164 / 423

ep.15 選択肢の無い物語①

「おはよ、ルーファス…」 「ああ…おはよう、セツ。」 この世界に来てから、オレはほぼ毎日…朝はルーファスに起こしてもらっていた。 最初こそ、朝寝坊がきっかけだったけども。 そのうちに、起こしてもらいたいって下心が湧いて。 わざと寝坊してたわけでもないんだけど…。 単純にルーに甘えたくて、自分から率先して起きることはなくなってた。 けど… 「早いな、良く眠れなかったか…?」 気を失って倒れたオレが、既に起きて着替えまで済ませていて。不思議に思ったのか、ルーは心配そうに問い掛けてくる。 「ううん…ちょっと早く目が覚めただけだよ。」 平気だよって、取り繕って笑ってみせたら。 ルーは一応、安堵したように表情を和らげてくれた。 それでも、何処か互いにぎこちないのは…仕方ないんだろう。 「おや、貴方が早起きとは珍しいですね。」 いつも一番乗りらしいヴィンが、食堂へとやって来て。既に来ていたオレを見て、開口一番に眉を顰める。 ヴィンもきっと、ムーバの件を知っているからか…言葉自体は、からかっているようでいて。 その実、いつもより気遣いみたいなものが感じられた。 「やはりまだ、横になっていた方が良いのでは…」 ルーがオレの身を案じ、支えるよう背中に手を伸ばすけれど。 「平気だよ…まだ朝ご飯には早いし、お腹もあんまり空いてないからさ。ちょっと散歩でもしてくるよ…!」 オレは出来る限り平静を装いながらも。 不自然に、その手をすり抜けてしまった。 間を与えず、俯き気味にオレは歩き出す。 たぶん、ふたりは気付いてる。 だって一瞬だけ目が合ったルーは、明らかに動揺していたし。ヴィンでさえ、かなり驚いた顔をしてたから… けど今のオレには、これが精一杯で。 この場を上手く凌げるような演技力も余裕も、全然無かったから。 少しでも悟られまいと、逃げるようにして。 オレはひとり屋敷の外へと駆け出していた。

ともだちにシェアしよう!