165 / 423

「どうしちまったんだよ、お前…」 「え…なにが?」 いつものように書斎で本と睨み合ってたら、ジーナとロロが、難しい顔で入って来て。 目が合うなり切り出され…オレは首を傾げる。 「惚けなくても、わかってんだろ…」 ジーナも孤児院での事で、かなり落ち込んでたから。オレに負い目を感じ、最初は言い難そうにしていたけれど。 「ルーの、ことだよ…」 名前を聞いただけで、思わずドキリとしてしまうけど。そこはなんとか平静に努めてみせる。 こんなんじゃ、先が思いやられるな… 「最初は、前みたいなノリなのかなって思ってたけどね…」 やっぱり変だよって、ロロも悲しそうに告げてくる。 「魔族に襲われてから、なんかお前おかしくなっちまうし…俺は何も出来なかったから…」 ごめんって、ジーナもロロもオレが目覚めてからずっと…言い続けている。 オレこそ、ごめんな… 「もう3日だよ?セツがルーを避け出して…」 「避けてなんかないよ…」 「避けてんじゃん!…あからさまだろ?」 ジーナに怒鳴られ、ついビクリと反応してしまうと。申し訳なさそうにジーナは目を逸らし、小さく舌打つ。 このふたりにさえ見透かされてるんだから。 やっぱりオレは、嘘を吐くのがとことん下手くそなんだろうな…。 「ルーと、何かあったの…?」 ボクはセツの味方だよ、と… 泣きそうなロロに、オレもつい流されそうになる。 でもねロロ、これだけは絶対に言えないことなんだよ…。 「無いよ…なんにも…」 「じゃあなんでッ…目を見て言わねぇんだよ…!」 明後日を向いて笑いながら答えれば、ジーナの怒声が飛ぶものの。オレは罪悪感から、やはり視線は合わせられず。苦笑いで誤魔化す。 「セツ…」 そんなオレを見て、ふたりは何を思ったのか… 互いに目を見合せると、力無げに肩を落としてしまった。 「俺の、所為か…?」 「え…?」 悲痛に絞り出される、ジーナの声音。 それは何故か自らを責めおり。 オレは呑み込めず、眉を顰める。 「オレが孤児院に行こうって、お前を連れてって…あんな目に、遭わせちまったから…」 そうだろって…いつもは自信満々なのに。 今のジーナは震えていて、いつもより随分と幼く見える。 「ボクだって…セツの守護騎士なのにッ…セツの傍を離れちゃったから…!」 耐えきれず泣き出すロロが、切なげに叫んで。オレはつい無意識にも…その頭を撫でてしまい。 堪らず胸にすがり付いてくるロロが、何度も何度もごめんねと…謝るものだから。 (悪いのは、オレなんだ…) オレの行動が、あらぬ誤解を生み…ふたりを追い詰めてしまっている。 こんな姿を見せられたら、今すぐにで本音をもぶちまけたい衝動に駆られたけれど…。 「違うよ…ふたりは何も、悪くないから…」 「じゃあ、なんで…」 他になんの理由があってルーを避けるのか…訴えてくるジーナの言葉を、オレは笑って遮る。 「理由は────言えない。…けど、絶対にジーナとロロの所為じゃないから。」 ごめんねって、そう答えてオレはまた。胡散臭い笑みを繕った。 それが余計にふたりを、追い詰めると解っていても… 「…んだよ、ソレっ…」 「どうして?ボク達じゃ、セツの力になれないの…?」 悔しげに吐き出されるものを正面から受け止め、オレは真っ直ぐ答える。 「オレね、みんなが大好きなんだ…」 この世界も、ここで出会った人達もみんな。 中にはグリモアやムーバみたいな悪い奴もいて、すごく切なくもなるけれど…。 「だからさ…守りたいんだ、オレも。」 戦う力は無いし、いつもルーや…みんなに、守られてばっかだけど。オレはオレのやり方で守りたいって思ってる… アイツも、この場所も。 「ごめん、なっ…ッ…」 ありがとう…そこまでが、オレの限界。 張り詰めるものが、今にも溢れ出してしまいそうだったから。 「セツ…!」 「くそッ…」 卑怯なオレは、困惑したままのふたりを置き去りにして。全力で…その場から離れたんだ。

ともだちにシェアしよう!