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②
「どうしちまったんだよ、お前…」
「え…なにが?」
いつものように書斎で本と睨み合ってたら、ジーナとロロが、難しい顔で入って来て。
目が合うなり切り出され…オレは首を傾げる。
「惚けなくても、わかってんだろ…」
ジーナも孤児院での事で、かなり落ち込んでたから。オレに負い目を感じ、最初は言い難そうにしていたけれど。
「ルーの、ことだよ…」
名前を聞いただけで、思わずドキリとしてしまうけど。そこはなんとか平静に努めてみせる。
こんなんじゃ、先が思いやられるな…
「最初は、前みたいなノリなのかなって思ってたけどね…」
やっぱり変だよって、ロロも悲しそうに告げてくる。
「魔族に襲われてから、なんかお前おかしくなっちまうし…俺は何も出来なかったから…」
ごめんって、ジーナもロロもオレが目覚めてからずっと…言い続けている。
オレこそ、ごめんな…
「もう3日だよ?セツがルーを避け出して…」
「避けてなんかないよ…」
「避けてんじゃん!…あからさまだろ?」
ジーナに怒鳴られ、ついビクリと反応してしまうと。申し訳なさそうにジーナは目を逸らし、小さく舌打つ。
このふたりにさえ見透かされてるんだから。
やっぱりオレは、嘘を吐くのがとことん下手くそなんだろうな…。
「ルーと、何かあったの…?」
ボクはセツの味方だよ、と…
泣きそうなロロに、オレもつい流されそうになる。
でもねロロ、これだけは絶対に言えないことなんだよ…。
「無いよ…なんにも…」
「じゃあなんでッ…目を見て言わねぇんだよ…!」
明後日を向いて笑いながら答えれば、ジーナの怒声が飛ぶものの。オレは罪悪感から、やはり視線は合わせられず。苦笑いで誤魔化す。
「セツ…」
そんなオレを見て、ふたりは何を思ったのか…
互いに目を見合せると、力無げに肩を落としてしまった。
「俺の、所為か…?」
「え…?」
悲痛に絞り出される、ジーナの声音。
それは何故か自らを責めおり。
オレは呑み込めず、眉を顰める。
「オレが孤児院に行こうって、お前を連れてって…あんな目に、遭わせちまったから…」
そうだろって…いつもは自信満々なのに。
今のジーナは震えていて、いつもより随分と幼く見える。
「ボクだって…セツの守護騎士なのにッ…セツの傍を離れちゃったから…!」
耐えきれず泣き出すロロが、切なげに叫んで。オレはつい無意識にも…その頭を撫でてしまい。
堪らず胸にすがり付いてくるロロが、何度も何度もごめんねと…謝るものだから。
(悪いのは、オレなんだ…)
オレの行動が、あらぬ誤解を生み…ふたりを追い詰めてしまっている。
こんな姿を見せられたら、今すぐにで本音をもぶちまけたい衝動に駆られたけれど…。
「違うよ…ふたりは何も、悪くないから…」
「じゃあ、なんで…」
他になんの理由があってルーを避けるのか…訴えてくるジーナの言葉を、オレは笑って遮る。
「理由は────言えない。…けど、絶対にジーナとロロの所為じゃないから。」
ごめんねって、そう答えてオレはまた。胡散臭い笑みを繕った。
それが余計にふたりを、追い詰めると解っていても…
「…んだよ、ソレっ…」
「どうして?ボク達じゃ、セツの力になれないの…?」
悔しげに吐き出されるものを正面から受け止め、オレは真っ直ぐ答える。
「オレね、みんなが大好きなんだ…」
この世界も、ここで出会った人達もみんな。
中にはグリモアやムーバみたいな悪い奴もいて、すごく切なくもなるけれど…。
「だからさ…守りたいんだ、オレも。」
戦う力は無いし、いつもルーや…みんなに、守られてばっかだけど。オレはオレのやり方で守りたいって思ってる…
アイツも、この場所も。
「ごめん、なっ…ッ…」
ありがとう…そこまでが、オレの限界。
張り詰めるものが、今にも溢れ出してしまいそうだったから。
「セツ…!」
「くそッ…」
卑怯なオレは、困惑したままのふたりを置き去りにして。全力で…その場から離れたんだ。
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