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(ヤバい……泣きそうだっ…) 独りになれる場所を求め、庭園奥を疾走し。林の中まで一気に駆け抜ける。 ジーナとロロにあんな風に言われてしまったら…つい心が折れそうになっちゃって。 オレは誰にもみつからないようにと、木々の中を闇雲に彷徨った。 すると… 「そんなに取り乱して、何処に行くの?」 「…ア、シュ……」 体力の限界で息を切らし、立ち止まっていると…背後から声を掛けられ。ドキリとして、胸を押さえ振り返る。 そこには、憂いをその目に浮かべるアシュレイの姿があり…。視線が合わされば遠慮がちにも、ゆっくり此方へ近付いて来た。 「なんて顔をしているんだい…」 痛々しげに表情を歪ませたアシュは、オレの目元へと手を伸ばす。 人知れず毎夜泣いていたせいか…腫れぼったいそこを、アシュは労る指でそっとなぞった。 反応に困るオレは、ただ黙って目線を彷徨わせる。 「何か、悩んでるんだろう…?」 話してごらんよと、アシュも優しく諭してくれるけれど。甘えそうになるのを耐え忍び、オレは黙ったまんま首を横に振った。 『……………』 その時微かにだけど、近くで話し声がするのに気付いて…。思わずアシュを見上げたら、制するよう唇に指を当てられる。 彼の目配せに従い…暫し声がする方へと、お互い意識を向けた。すると… (ヴィンと、ルー…だ…) 息を潜め、木陰に身を隠す。 隙間からこっそり覗けば、ふたりが対峙しているのが見えて。 神妙な面持ちで、何かを話していた。 「どうしたのですか?セツも、貴方も…」 どうやらヴィンもジーナ達と同じように、オレ達のことを心配していたみたいで…。 特にルーとは元々同じ部隊で、仲が良かったから。親友として…この状況を黙って見過ごすことが出来なかったんだと思う。 「ジーナとロロが、随分と落ち込んでいましたよ。自分達の所為で、セツを危険に晒してしまったと…」 孤児院での悲劇が、原因ではないのかと…ヴィンはルーを問い詰める。 「…たぶん、それは違う…」 すると黙って聞いていたルーは、ヴィンの言葉を瞑目して否定した。 …が、それ以上は何も語らないから。 ヴィンはもどかしげに眼鏡を正すと、深く溜め息を漏らす。 「…では一体、何が原因だというのですか?」 あの一件でオレは傷付き倒れ、翌朝顔を合わせて以来…ルーとはずっと、ギクシャクしている。 平静を装ってるつもりだったけど。 さすがにあからさまだったよな…今まで散々くっついてたのにさ。 そうやって、何かと理由を付けて避けてたから。 でも今は、その近過ぎた距離感がしんどくて。 どうしても、耐えられなかったんだ…。

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