167 / 423
④
ヴィンがこんな風に、他人の込み入った部分に踏み込むのは珍しく。それだけに、彼が本気でルーを心配しているのが伝わってくる。
いつになく悲痛な友の視線を受け止めるルーファスは。天を仰いで呟くよう…答えた。
「さあ…な…」
まるで自嘲するみたく告げる友に。ヴィンは眉を歪ませる
「貴方らしくないですね…」
ならば何故、この現状を黙って受け入れているのか…
確かに、ルーはオレが前に避けてた時でさえ積極的だった。
今回なんてあんなコトまでさせといて…次の日には無かったことのように。オレはルーを、避け続けてる。
なのにルーは何も言わない。
本当なら、言いたいことが山ほどあるハズなのに…。
(キス、したんだ…)
あんな痺れるような甘いキスを、したのに…
何も思わないわけないじゃん…。
オレが一番、そのことを引き摺ってるくらいなのにさ。
ルーが何を思うのか…
それを密かに待ち詫びていると…
「分からないんだ、私にも…」
苦笑するルーは、何処か遠くへと想いを馳せており。その姿は虚ろげで…ここからでもアイツの心情が、痛いほど伝わってくる。
「ならばセツに、訊ねてみればよいでしょう?」
このままの状態を続けたら…お互いの溝は深まるばかり。神子と守護騎士の立場を考えたら、この現状では黙視出来ないと…ヴィンは遠回しに友を気遣う。
ルーがそれを一番理解してるだろうから…お前には敵わないなと、苦笑を漏らした。
「それが出来れば、な…」
どうすればいいか分からない。ルーは力無く答える。
「私には理解出来ません。貴方もセツも、心の内など…誰がどう見ても明白ではありませんか。」
何を迷うことがあるのか…
ルーだってとっくに気付いてるんだろうに…。
そこまで解っていながら何故、擦れ違わねばならぬのか…と。ヴィンの言葉は難しいけれど、言いたいことは嫌でも理解出来た。
オレだって馬鹿じゃない。
最初は自信がなくて、男だからって諦めて、気付かないフリをしていたけどさ…。
あんなキスを許してくれるのなら。もうコタエは、出てるんだろうな…
ヴィンと視線を交わしたまま、しばらく沈黙が続き。ルーは徐に、口を開く。
「初めてなんだ…こんな風に、誰かを想うのが…」
自分は不器用だから。
いざとなると、どう接していいか判らなくなる。
ルーをここまで追い詰めてるのは、明らかにオレの所為だろう。ルーに罪は無い、だけど…
「セツは私を避けている…が、その度に…とても悲しそうな目をするんだ…。」
だから、
「私は何も言わない。」
このオレが…何も言わない、言えないのだと。解っているからこそ。
「それが、許される時が来るまで…私は待とうと思う。」
(…ッ……!)
堪らず漏れそうになる嗚咽を両手で塞ぐ。
一度溢れたものは、どうにもならなくて。オレはずるずるとその場に崩れ落ちた。
「…その覚悟があるのなら、もう少し役者になって頂かないと。」
ロロやジーナが悲しむでしょう?
辛酸に見えて、ヴィンの声も悲しそうに笑っている。
それに応えてルーも、
「心配を掛けて、すまない…」
そう儚げに苦笑った。
ともだちにシェアしよう!