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ヴィンがこんな風に、他人の込み入った部分に踏み込むのは珍しく。それだけに、彼が本気でルーを心配しているのが伝わってくる。 いつになく悲痛な友の視線を受け止めるルーファスは。天を仰いで呟くよう…答えた。 「さあ…な…」 まるで自嘲するみたく告げる友に。ヴィンは眉を歪ませる 「貴方らしくないですね…」 ならば何故、この現状を黙って受け入れているのか… 確かに、ルーはオレが前に避けてた時でさえ積極的だった。 今回なんてまでさせといて…次の日には無かったことのように。オレはルーを、避け続けてる。 なのにルーは何も言わない。 本当なら、言いたいことが山ほどあるハズなのに…。 (キス、したんだ…) あんな痺れるような甘いキスを、したのに… 何も思わないわけないじゃん…。 オレが一番、そのことを引き摺ってるくらいなのにさ。 ルーが何を思うのか… それを密かに待ち詫びていると… 「分からないんだ、私にも…」 苦笑するルーは、何処か遠くへと想いを馳せており。その姿は虚ろげで…ここからでもアイツの心情が、痛いほど伝わってくる。 「ならばセツに、訊ねてみればよいでしょう?」 このままの状態を続けたら…お互いの溝は深まるばかり。神子と守護騎士の立場を考えたら、この現状では黙視出来ないと…ヴィンは遠回しに友を気遣う。 ルーがそれを一番理解してるだろうから…お前には敵わないなと、苦笑を漏らした。 「それが出来れば、な…」 どうすればいいか分からない。ルーは力無く答える。 「私には理解出来ません。貴方もセツも、心の内など…誰がどう見ても明白ではありませんか。」 何を迷うことがあるのか… ルーだってとっくに気付いてるんだろうに…。 そこまで解っていながら何故、擦れ違わねばならぬのか…と。ヴィンの言葉は難しいけれど、言いたいことは嫌でも理解出来た。 オレだって馬鹿じゃない。 最初は自信がなくて、男だからって諦めて、気付かないフリをしていたけどさ…。 あんなキスを許してくれるのなら。もうコタエは、出てるんだろうな… ヴィンと視線を交わしたまま、しばらく沈黙が続き。ルーは徐に、口を開く。 「初めてなんだ…こんな風に、誰かを想うのが…」 自分は不器用だから。 いざとなると、どう接していいか判らなくなる。 ルーをここまで追い詰めてるのは、明らかにオレの所為だろう。ルーに罪は無い、だけど… 「セツは私を避けている…が、その度に…とても悲しそうな目をするんだ…。」 だから、 「私は何も言わない。」 このが…何も言わない、言えないのだと。解っているからこそ。 「それが、許される時が来るまで…私は待とうと思う。」 (…ッ……!) 堪らず漏れそうになる嗚咽を両手で塞ぐ。 一度溢れたものは、どうにもならなくて。オレはずるずるとその場に崩れ落ちた。 「…その覚悟があるのなら、もう少し役者になって頂かないと。」 ロロやジーナが悲しむでしょう? 辛酸に見えて、ヴィンの声も悲しそうに笑っている。 それに応えてルーも、 「心配を掛けて、すまない…」 そう儚げに苦笑った。

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