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⑤
(ごめん、みんな…ごめんね、ルー…)
解ってる…
オレがこんなだから、みんな傷付けてしまってる。
でも、ダメなんだ。
例えオレのそれが杞憂で…塵ほどの可能性であったとしても。
起こりうるかもしれない悲劇があるのなら、オレは…
「…ぅ…ぇ…ッ……」
ふたりが立ち去った後、オレは潔く弱音を吐き出す。それは堰を切って溢れだし、止めどなく膨らんで…
「本当に君は、不器用さんだね…」
「あ、しゅっ…」
弾かれて見上げたら、悲しげに微笑むアシュの姿。
泣き崩れるオレの前にしゃがみ込むと、宥めるように頭を撫でてくれた。
「大丈夫、これは僕とセツの秘密だから…」
解ってるよ…と。
その優しさを、今だけは甘んじて受け入れる。
「ごめッ…オレ…っ…」
「良いんだよ、無理しなくても。」
言えないんだよね、と…
泣きじゃくるオレを抱き締めてくれるアシュ。
オレが抱えてる悩みは、解らないとしても。
アシュなら、オレとルーの気持ちぐらい…すぐ気付いてただろうから。
「ッ…なのに、言えないッ…んだ…」
この想いを口に出せば。
何かが確定してしまうかもしれない。
それが幸か不幸か…そこまでは判らないけれど。
「君は神子だから…もしかすると、この先の未来を…案じているのかな…」
聞くでもなく、独り言みたく呟くアシュ。
オレはやっぱり何も言えないけど。
アシュは黙って受け入れ。オレを包み込んでくれるんだ。
「辛い恋なのだろうね…。けど挫けてはいけないよ、セツ。」
「アシュ…」
泣き腫らした顔をもたげたら、アシュは指の腹で涙を拭ってくれる。
「信じるんだ。君の想いは必ず叶うって。」
「ほんと、に…?」
縋る思いで問い返せば、アシュはふわりと微笑んで。
「言葉は魔法だよ、セツ。唱えてごらん?君は奇跡の力を持つ神子なのだから…ね?」
もしもなんて…悪いことは考えちゃいけない。
例えそれが頭を過ってしまっても。
その度に、自分が本当に望んでいる未来を思い描くんだ。
そうしたら必ず、光は見えるはずだから─────
「信じるかい…?」
「うん…オレ、信じる。信じるよ…」
アシュの言葉には妙に説得力があり。
もしかしたら本当に魔法でも使ったのかな…とか、思わず笑みが溢れる。
「…やっと笑えたね。」
そうしたらアシュもにっこり笑って。
よしよしと、頭を撫でてくれた。
(まだ前には、進めないけど…)
アシュの言うような未来もまた…選択肢のひとつとして、オレに残されているなら。
諦めちゃいけない、負けてはいけない。
だってここはもう、ゲームの世界とは掛け離れた…オレだけの、オレが選んだ物語なのだから。
(みんなのためにも…)
ルーのためにも。
何度挫けそうになっても、仲間がこうして背中を押してくれるから。
「さあ、セツは顔を洗っておいで?僕は先に行くから…」
今一緒に戻ったら、ルーファスに怒られそうだからね?…なんて。いつもの調子で告げ、アシュは立ち上がる。
「ありがと、アシュ…」
「ふふ、気にしないで?役得だったから。」
どういたしましてと、手を振る背中を見守って。
オレは空を見上げた。
何かが解決したわけじゃないし…
オレにはやらなきゃならないことが、まだ沢山ある。
それに、
(叶えたい未来が、あるんだ…)
悲劇なんかじゃない。
この想いの先にある…平穏な日々のために。
青く無限に広がる、フェレスティナの空に向かって。
オレはその夢のようなひとときを、強く強く想い描いていた。
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