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(ごめん、みんな…ごめんね、ルー…) 解ってる… オレがこんなだから、みんな傷付けてしまってる。 でも、ダメなんだ。 例えオレのそれが杞憂で…塵ほどの可能性であったとしても。 起こりうるかもしれない悲劇があるのなら、オレは… 「…ぅ…ぇ…ッ……」 ふたりが立ち去った後、オレは潔く弱音を吐き出す。それは堰を切って溢れだし、止めどなく膨らんで… 「本当に君は、不器用さんだね…」 「あ、しゅっ…」 弾かれて見上げたら、悲しげに微笑むアシュの姿。 泣き崩れるオレの前にしゃがみ込むと、宥めるように頭を撫でてくれた。 「大丈夫、これは僕とセツの秘密だから…」 解ってるよ…と。 その優しさを、今だけは甘んじて受け入れる。 「ごめッ…オレ…っ…」 「良いんだよ、無理しなくても。」 言えないんだよね、と… 泣きじゃくるオレを抱き締めてくれるアシュ。 オレが抱えてる悩みは、解らないとしても。 アシュなら、オレとルーの気持ちぐらい…すぐ気付いてただろうから。 「ッ…なのに、言えないッ…んだ…」 この想いを口に出せば。 何かが確定してしまうかもしれない。 それが幸か不幸か…そこまでは判らないけれど。 「君は神子だから…もしかすると、この先の未来を…案じているのかな…」 聞くでもなく、独り言みたく呟くアシュ。 オレはやっぱり何も言えないけど。 アシュは黙って受け入れ。オレを包み込んでくれるんだ。 「辛い恋なのだろうね…。けど挫けてはいけないよ、セツ。」 「アシュ…」 泣き腫らした顔をもたげたら、アシュは指の腹で涙を拭ってくれる。 「信じるんだ。君の想いは必ず叶うって。」 「ほんと、に…?」 縋る思いで問い返せば、アシュはふわりと微笑んで。 「言葉は魔法だよ、セツ。唱えてごらん?君は奇跡の力を持つ神子なのだから…ね?」 もしもなんて…悪いことは考えちゃいけない。 例えそれが頭を過ってしまっても。 その度に、自分が本当に望んでいる未来を思い描くんだ。 そうしたら必ず、光は見えるはずだから───── 「信じるかい…?」 「うん…オレ、信じる。信じるよ…」 アシュの言葉には妙に説得力があり。 もしかしたら本当に魔法でも使ったのかな…とか、思わず笑みが溢れる。 「…やっと笑えたね。」 そうしたらアシュもにっこり笑って。 よしよしと、頭を撫でてくれた。 (まだ前には、進めないけど…) アシュの言うような未来もまた…選択肢のひとつとして、オレに残されているなら。 諦めちゃいけない、負けてはいけない。 だってここはもう、ゲームの世界とは掛け離れた…オレだけの、オレが選んだ物語なのだから。 (みんなのためにも…) ルーのためにも。 何度挫けそうになっても、仲間がこうして背中を押してくれるから。 「さあ、セツは顔を洗っておいで?僕は先に行くから…」 今一緒に戻ったら、ルーファスに怒られそうだからね?…なんて。いつもの調子で告げ、アシュは立ち上がる。 「ありがと、アシュ…」 「ふふ、気にしないで?役得だったから。」 どういたしましてと、手を振る背中を見守って。 オレは空を見上げた。 何かが解決したわけじゃないし… オレにはやらなきゃならないことが、まだ沢山ある。 それに、 (叶えたい未来が、あるんだ…) 悲劇なんかじゃない。 この想いの先にある…平穏な日々のために。 青く無限に広がる、フェレスティナの空に向かって。 オレはその夢のようなひとときを、強く強く想い描いていた。

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