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ep. 16 騎士団長様は恋のライバル?①

ルーとヴィンの会話から、思いがけずもアイツの本心を垣間見て。アシュのおかげもあり、気持ちも少しだけ整理出来たから。 あの日以降… オレはまた、いつもみたく振る舞えるようになった。 みんなに迷惑を掛けてしまったし…なるべく気を遣わせないよう努めてはいたけど。 前ほど思い詰めたりはしないから、幾分冷静にはなれていたと思う。 ルーが敢えて黙認してくれてるからこそ、成り立つ関係。決して望んだ形では無いけれど…今はまだ、先の未来に確信が持てるまでは。 じっと耐えようって…決めたんだ。 といっても、オレはそんな強い人間じゃないし。 何かあったらすぐボロが出てしまうんだけど、ね…。 「ん~…良い風だなぁ…」 息抜きにとルーファスに誘われて。 園庭奥の林の中にある花畑まで、散歩へと繰り出す。 降り注ぐ陽光にオレは背伸びして。そよぐ風を受け、堪能するよう目を閉じた。 木漏れ日がキラキラと草花を照らし、なんだかとても幻想的に見える。 「風の精霊が…セツを気に入ったようだ。」 花畑が見渡せる草むらに腰掛け、隣に並んで座るルーがクスクスと笑う。 …と、徐に手を宙へ伸ばして。 なんだろうと内心ドキドキしながら、成り行きを見守っていると… 「わぁ…」 ルーの(かざ)した指先に、翡翠色の光が舞い降りてきて…小さなつむじ風みたくするすると、ルーの腕を伝わっていく。 そのなんとも不思議な光景に、オレはキラキラと目を輝かせた。 「セツが神子だと、判るようだな。」 「そうなんだ…」 風を纏う手を、ルーがオレへと差し出せば。 まるでスキップするみたく、オレの身体へピョンピョンと飛び移ってきて。今度はオレの回りをグルグルとし始める。 その光の風が、ほんのりと温かくて…まるでルーみたいだな、と思った。 「すごいなぁ…」 この世界は魔力で満ち溢れていて。 素養さえあれば、誰でも扱えるという魔法。 それは戦いの手段としてだけでなく、魔法石の加工や道具の作成などなど…日常の、様々な場面で活躍していた。 勿論、類い希な才能があれば、宮廷魔術師や騎士を目指すことも可能だ。 特に特級騎士団は、子ども達の憧れの職業で。そういえばティコが目を輝かせて話してたっけ…。 そう考えると、ルー達はホントにスゴいんだなぁと…改めて実感する。 「それほど珍しいものなのか?」 浮遊する光を、爛々と目で追いかけていると…ルーが微笑む。 それは通常、目に見えるものではないそうだけど。さっきルーがやってたみたいに、魔力を通してやれば…こうして目に見えて光出すのだそうだ。 「だってオレのいた世界には、魔法なんて存在すらしてないんだよ?」 魔法は空想のみの産物。 物語や漫画の世界だけの話なんだから。実際にこんな綺麗なの見せられたら、感動して当然だよね? 「私からすれば、セツの力の方が奇跡だと思うが…」 確かに…現世で何の力も持たないオレが、魔法を使えるようになったんだもんなぁ。 ティコを救えた時は、ホント奇跡的だったとは思うけど…。まだ自分の意志では扱いきれてないから、微妙だ。 治癒魔法が最高難度という、この世界にとってはスゴいことかもしんないけれど。 なんかまだ、実感湧かないんだよね…。

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