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②
「オレなんて、まだまだだよ…」
実際、戦うってなったらオレはホント無力だから。
いつだってルーに助けられてばっかだし…
何度も危険を犯して、みんなにも迷惑かけっぱなしだもんな…。
「そんなことはない。セツは常に、努力しているじゃないか。」
自分の意志とは関係なく神子にされて。
苦手な勉学にも励み、世界を救うため強くなろうと必死で前へと進んでいる。
それをルーはちゃんと見ている、知っているからって…。どんな時でも、オレの味方でいてくれるから。
(ああ…やっぱり、)
好き。
例えその二文字を、声に紡ぎ出せなくても。
たぶんもう、バレバレなんだけど…
想うだけでも…なんて。
ちょっと、ズルいのかな…
「…ぁ……」
ほんの一瞬でも、その目に捕まってしまうと。
隠しきれてない下心が、全部溢れ出してしまいそうになる。
誤魔化して、先程の精霊の光に視線を戻したら…。
それは蛍みたいにふわふわと、花畑の方へと飛んで行き…一輪の花へと、ゆっくり降り立った。
「ああ…ちょっと待っていてくれ。」
何かを察したルーが立ち上がり、光が降りた場所へと向かう。
そのまま手を伸ばし、風の精霊が留まる花を摘み取ると…。ルーはそれを手にまた、此方へと戻って来た。
「どうしたの?」
悪戯な笑みを湛えるルーに、首を傾げると。
「風の精霊は、随分とお前に興味があるみたいでな。」
そう言って、ルーは花を示す。
それはここに咲き誇る花の中でも、珍しい種類の花らしくて。薄青の花弁に、翡翠の光がゆっくり弧を描き浮遊し始める…と。
「この花を、セツに贈りたいのだと…」
「え…」
言ってルーは、その花をオレの髪へと飾ってくれて。すると精霊は、まるで喜びを表すかのよう…目の前で飛び回った。
「ふふ…似合ってると、言いたいらしい。」
可憐だなんて、歯が浮くような台詞を。さらりと口にするルーファス。
不意打ちはやめてほしい…
コイツはすぐ思ったことを言ってしまうから。
困るんだよ…そんな風に見つめられたら。
オレはすぐ、捕まってしまうんだから…。
「ル…」
言葉なく、愛おしげに注がれる眼差しに。
心臓が早鐘を打つ。
なんとかして、この空気から脱け出さなくちゃって…そう思うのに。
本音は今すぐにでも触れられたいだとか。
邪な心に、負けてしまいそうになるから。
「セツ…」
花飾りが添えられた髪に触れられ、射抜かれる。
どうしよう、また逃げないと…
追い詰めるよう早まる心拍数に、オレが限界を感じていると─────
「セツ様~、ルーファス様~!」
「あっ…」
幸か不幸か…
オレ達を探すメイドさんの声に遮られて。
内心ほっとしながらも、何処かがっかりしてる自分に自嘲する。
「ヴィンセント様が、宮殿よりお戻りになられまして。皆様にお話があるとのことですので…」
メイドさんに告げられ、オレがルーを見上げると…
なんとなく寂しそうに見えたのは、気の所為なのかな…?
「私は先に戻りますので…」
いそいそと、この場を後にするメイドさんは。
去り際オレに、
「お邪魔して申し訳ありません~!」…と、なんだかバツが悪そうな顔をして去って行ってしまい。
さすが戦えるメイドさんなだけあって、動きが颯爽としてるな…
「行こうか、セツ…」
名残惜しそうな声で先を行こうとするルーに、オレも胸が締め付けられて。
「セツ…?」
無意識に、ルーの袖を掴んでしまった。
解ってるのに、また悪いクセが出ちゃうから…
ほらやっぱり…ルー、メチャクチャ困ってんじゃんか。
「どうした…?」
歩きを止め振り返るルーから、苦笑が聞こえてくる。けどオレは黙ったまんま、地を見つめていたんだけど。
「困ったな…」
ぽつりと余裕なく呟きながらも、ルーに手を握られて…じゃれるみたく、指が絡められる。
戸惑いながらも、オレはそれを甘んじて受け入れてしまうから…
擽ったい密やかな熱に。少しの間だけ酔いしれた。
「もう、行かねば…」
ヴィンが待っているからと。
言いながらルーはオレの手を慈しむ。
オレも頷くクセに、自分からはどうしても離れたくないから。
でも…
「行こっ…か…」
自ら切り出し、見上げたら…
互い、泣きそうなくらいの苦笑を浮かべており。
通じ合ってるからこそ、何も言わず。
どちらとなく離れる。
(ごめん、ルー…)
オレは言わない、だからルーも何も聞かない。
それはあまりに残酷で…きっとルーを苦しめてるはず。
それでもお前は…
オレを信じて、待っていてくれるのかな?
「ん…何か言ったか?」
「ううん、なんでもないよ…」
口から溢れた謝罪。
それすらも、今は言葉にすることは出来ないから。
ルーは何か言いたげな顔をしていたけれど…。
オレは敢えて見ないよう、ルーの背中を押して促し。ヴィン達が待つ屋敷へと向かった。
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