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「ならば私が、セツ殿の護衛を引き受けよう。」 そう名乗りを上げ…談話室へと入ってきたのは、騎士団長のオリバーさんで。 「オリバー団長…」 彼の登場に皆、恭しく一礼する。 さすが特級騎士団随一を誇る攻撃部隊、第一本隊の団長だけあり…彼は騎士達の憧れの存在。 いつも砕けた調子のジーナでさえ、キリッと姿勢を正し挨拶していた。 「そう畏まらなくて良い。」 今日は私用で来ただけだからと、爽やかに告げるオリバーさんは。 相変わらず春風のように爽やかな笑みを湛えつつ。さすが騎士界のカリスマ、懐までもが分厚い。 加えて鍛え抜かれた肉体美、男らしくも甘いマスクまで…と三拍子以上を兼ね備えてるんだから。 そりゃあ、みんなが憧れるわけだよなぁ。 「私用とは…」 ヴィンが疑問を口にすると。 オリバーさんは、ああと返信して答える。 「大した用ではないのだが…先日の魔族に襲われた件で、セツ殿の様子が少々気になったので…な。」 オレを心配して、わざわざ屋敷まで足を運んだというオリバーさんは。此方へと向き直り、軽く一礼する。 「セツ殿、体調は如何ですか?」 「あっはい…オレなら全然、もう元気ですよ!」 そう訊ねるオリバーさんに釣られ、オレもペコリと頭を下げる。 ルー達とは常に一緒だから、多少は耐性が付いてきたけれど。オリバーさんは大人だし紳士だし…やっぱりメチャクチャ格好いいから、いつになく緊張してしまう。 アシュよりも年上だからね。 トップクラスの騎士団長さんだし、なんだか纏う空気も違うからさ… 「先刻の議会でも、魔物被害の増加が報告されましたから…」 騎士団も対応に追われてるって話だしね。 だから…と、オリバーさんは続ける。 「彼ら守護騎士は、セツ殿のお傍で先駆けて盾となる身。今こそ日々の鍛練が活かされる時ですから…ここは及ばずながら、私が護衛として同行致しましょう。」 如何ですか?と問われ、思わずルーを振り返る。 ついルーと一緒にいたいとか(よぎ)ってしまうものの…ルーだって本音は、鍛練の時間が必要なはず。 オレの子守りばっかりじゃ、修行にも集中出来ないだろうから… 「じゃあ…お願いしてもいいですか?」 「はい!ルーファス達も、私に任せてもらえるだろうか?」 畏まるよう、みんなにも改めて了解を得るオリバーさん。 守護騎士は特権階級だから、現状ルー達の方が立場が上らしいのだが。相手がオリバーさんだからか…みんな彼に対し、敬意で以て接している。 オリバーさんも変に上司面しないし、貴族院みたいに見下したりもしてこないから。そういう彼の人柄に、オレは自然と顔を綻ばせた。 「オリバー団長の御手を、煩わせてしまい…申し訳ありません。」 「気にするなルーファス。私とて神子を守護する騎士のひとり、志はお前達と同じだ。」 白い歯を覗かせ笑うオリバーさんに、ルー達は揃って深々と一礼する。 「オリバーさん、よろしくお願いします。」 オレも頭を下げると、ヴィンに早速参りましょうかと促され。ルー達にも見送られ、オリバーさんと一緒に歩き出す。 部屋を出る際に、チラッとだけ後ろを振り返ったら…ルーと目が合って。互いに苦笑を浮かべつつ、その場を後にした。 勘違いじゃないと思うけど。 こういう時ルーは必ず、寂しそうにするんだよなぁ…

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