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「先代神子が召喚されたのは…およそ150年程前だと、言われてますね。」 オレがざっくりと知りたい内容を説明すると…オリバーさんが棚の中から、何冊か選んでくれて。 一緒に内容を追いながら難しい解釈の部分を、解り易く丁寧に説明してくれた。 ヴィンは基本的にスパルタだからね。 こんな風に優しく教えてくんないから、ホントありがたいよ。 オリバーさんの教え方、すっごく上手だし! 「先代より前の神子は、大体200年くらい空いてるんですね。」 「先代神子は何かと謎が多く、確かな情報が少ないようです。研究者の間では、隠蔽された記録があるのではないかと…様々な憶測も飛び交っているようですし。」 残された古文書などの情報を纏めると、先代神子は16歳の女の子で。他の神子に比べ、あまり力を発現出来なかったようだ。 各地の封印も、場所によって結界の強度がまちまちらしい。 理由は解んないらしいけど…例えば、性格にムラのある神子だったとか?まだ女子高生くらいの、多感な年頃だし。思春期特有の不安定さが、あったのかもしれない。 「う~ん…やっぱりこういう古い歴史書って、年表に乗るような記録しかないんですね。」 例えば神子が記した日記とか?日々の記録…とまではいかなくても。召喚されて、どのくらいで覚醒出来たかとか…結界を施した時の詳細とかさ。 そういうのが判る物があればな~とは思ったんだけど。なかなか上手くは、いかないもんだよね…。 それでも唯一、知ることが出来たのは… 「どの神子も、みんなこの世界で生涯を終えてるんだ…」 それでも今まで、神子が使命を果たせなかったことは無かったみたいで。ムラのあった先代神子も、一応魔族を退けたらしい。 で…平和になった後は大体、そのまま神子屋敷で余生を過ごしたり。中には守護騎士や王族なんかと結婚した神子もいるそうだ。 ルーファス達やアリシア様にも、神子の血が受け継がれてるって話だったしね。 …ということは、だよ? 「神子は誰も、元の世界に帰らなかったんですね…」 平和になったら帰れるって流れも良くある話だけど。 確かに、あのゲームには…現実に戻るって選択肢は無かった気がする。 「そのようですね。我々の憶測ではありますが、神子の召喚は一方的に作用するもののようなので…」 何故かオリバーさんは、複雑な面持ちで言葉を濁して… 「セツ殿は…やはり、戻られたいのですか…?」 「えっ…?」 急に真剣な眼差しを向けられ、ドキリとする。 …そっか、すっかりこの世界にも馴染んでたから忘れてたけど。オレは別世界の人間なんだよな…。 そういうこと考える暇もないくらい、色々あったからさ。でも、 「あんまり考えたことは、なかったですけど…」 この世界に呼ばれ神子になり。やりたいこと、守りたいものもみつけて。 最初こそ、不安もあったけれど…そんなことさえ忘れてしまえるくらい、毎日がドキドキの連続だった。 何よりこの世界で、本気で人を好きになって… アリサちゃんへの想いは、決して嘘じゃなかったし。軽い気持ちでもなかったんだけど…。 命掛けで、性別も立場も全部抜きにして。 この恋が、生涯最初で最後だって思えるくらい、本気で好きになれたのは… 唯一、アイツだけだから。 「…今はこの世界が、オレの居場所だと思うんです。」 この世界を救い。みんなと…ルーファスと、ずっと一緒にいたい。 はっきりとオレが答えたら…オリバーさんは、 「そうですか…」 なんだか嬉しそうに目を細め、微笑んでいた。

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