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⑨
それからもオリバーさんに手伝って貰いながら、書物と格闘すること2時間くらい。
世間話を挟みながらだったこともあり、思いの外楽しい時間を過ごせた。
ホント今日はオリバーさんのおかげで、すっごく助けられちゃったなぁ。
とはいえ、多忙な騎士団長様をいつまでも引き留めておくのも忍びなかったので…。そろそろ切り上げようかなと、ヴィンの元に向かったんだけど。
そっちの方はまだまだ集中していて、時間が掛かりそうだったし…けどオリバーさんには悪いから。
オレひとり残って、ヴィンのことを待ってようかと思ったのだが…
「でしたら私が屋敷まで、お送りしますよ。」
オリバーさんの方から、そう快く申し出てくれたので。ここは素直に甘えることにした。
そうして屋敷に戻るべく、神殿を出た矢先のこと…
「オリバー団長~!」
やっとみつけましたよ~と、威勢良く騎馬に乗ってやって来たのは…オリバーさんと同じ、第一部隊の青い隊服を纏う騎士さん達で。
訊けば、なかなか戻らないオリバーさんを探しに来たのだとか。
「どうした?何か問題でもあったか?」
「いえ!大した用ではないのですがっ…」
…と、オリバーさんの背後にいたオレの存在に気付き、彼らは目を丸くして固まる。
「み、神子殿…!?」
もうオレの存在は周知の沙汰なので。
最近は敷地内なら、フードで隠すこともなくなった黒髪に視線が集まる。
上から下までじーっと見つめられるけど。
騎士さん達のそれに、奇異的なものは感じられなかったから────って、さすがにコレは恥ずかしいよね…。
「こら、お前達…セツ殿に失礼だろう。」
見かねたオリバーさんが、騎士さん達を窘めると。ハッと我に返る彼らは、慌ててオレに敬礼し詫びを入れる。
「神子殿、大変失礼致しました!」
「いえ、大丈夫ですから…」
もの凄い勢いで頭を下げられてしまい、戸惑うも…。
彼らはピシリと姿勢を正すと、また揃って口早に話し始めた。
「神子殿、うちの団長がお世話になってマス~!」
1人目の元気な騎士さんが、軽いノリでそう告げると。隣のツリ目な騎士さんが、すかさず彼の頭をゴチンッと殴りつける。
「申し訳ありません、コイツ頭が悪くて…」
とんだご無礼を~と…1人目の騎士の頭をグリグリと押さえ平謝りする。
更に3人目の騎士さんが、オリバーさんへと話掛けた。
「てっきり、セツ殿のお屋敷にいらっしゃるものだと思ってましたが…」
「ああ、セツ殿が神殿に参られるというのでな。護衛を申し出たのだ。」
オリバーさんが今までの経緯を説明すると、3人はおお~っと歓声を上げ。お互いを見やるなり、なにやら意味深な目配せをし始める。と…
「隊長が、ふたりっきりで…スゴいじゃないッスか~!硬派な隊長が、まさかそこまで積極的だったなんて~!」
「神子殿とは、どのようなお話を?次の約束も、ちゃんと取り付けたんですよね?」
「隊長、神子殿に何か失礼なことなどしてませんか?こういった事は、最初の印象が肝心なんですから…」
「なっ…いきなり何を…」
目を爛々と輝かせ、矢継ぎ早に詰め寄る騎士達に。珍しくもオリバーさんは、たじろいで後退る。
それでも3人の尋問は止まらず…。
初デートの感想は~とか、口説き文句はどうしましょうだとか…オレには良く解んないことばかりを、話し込んでたんだけれど。
あの完璧で大人なオリバーさんが、眉尻を下げ困った表情を浮かべて。まるで救いを求めるかのように、チラチラとオレを見てくるものだから…
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