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「参りましたな…」 ポツリと呟き、オリバーさんは心を静めるよう瞑目しながら、深呼吸すると。眩しいものを見るかのような視線を…オレへと注いでくる。 なんだかその視線には彼の端正な顔も重なり、妙な艶を含んでいて…加えて手もギュッと、握られたまんまだったから。 誰かさんによく似た、その瞳の色に捕まると… オレは変に意識してしまい───── 「セツ!」 屋敷の2階から、突然オレを呼ぶ声が耳に入り。 弾かれドキドキしながら、声がした方を仰ぎ見る。 オリバーさんも釣られて見上げたら… 「ル───…え、ちょっ…」 声の主は、やっぱりルーファスで。 見上げた先…2階のバルコニーにて、すぐにその姿を認めたのだけども。 その時にはアイツはもう、既に手摺へと手を掛け身を乗り出して───── …次には何の躊躇もなく、そこから飛び降りてしまっていた。 「セツ…」 「るっ、う…」 まるで背中に羽が生えてるかのように、ふわりと着地したかと思えば。(とど)まることなく颯爽と、オレの元まで駆け寄って来たルーファス。 …さらっと自然な流れで、飛び降りて来たけどさ。 アレ、2階だよ?しかも普通の家なんかより天井とか、メチャクチャ造りの高い屋敷の2階からだよ? なんか平然としてるけど… 呆気にとられたオレは、ひとりぽかんとして。ただただ絶句するのだが… 「オリバー隊長…お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」 「いや、こちらこそ…少々遅くなり、心配させてしまったようだな。」 このふたりは特に大した反応もなく… ビックリしたまんまのオレを置き去りに、お互い涼しげな様子で挨拶を交わす。 …どうやら一般人のオレの感覚とは、次元が違うみたいだ。 まだルーの登場シーンへの余韻を、払い切れぬオレは。淡々と会話するふたりを、ぼんやりと見上げるしかなく。 一見すると、他愛ない話をしてるはずなんだけど… なんだろう? ふたりは何か物思いに耽るかのよう、視線を合わせたまま黙ってしまい… ちょっと重くなる空気を(いぶか)しみつつ、オレが何も出来ないでいたら。 そんな空気を断ち切るよう…先に口を開いたのは、オリバーさんの方だった。 「さて…部下に仕事を押し付けてしまったし。私は戻ることにしよう。」 ルーに告げ、オレへと向き直るオリバーさんは。 微笑む中で、なんとなく一瞬だけ…寂しそうな表情を、その瞳に纏わせる。 「セツ殿、また機会がありましたら、是非…」 「あ、はい…今日は本当にありがとうございました!」 一礼する彼に、慌ててお辞儀をすれば。今度はにっこりと、満面の笑みを見せてくれて。 そうして映える夕焼けの中、オリバーさんは足早に行ってしまう。 その背中に、オレが大きく手を振ったら… 彼もまた時々振り返っては、律儀に何度も応えてくれた。

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