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⑭
「参りましたな…」
ポツリと呟き、オリバーさんは心を静めるよう瞑目しながら、深呼吸すると。眩しいものを見るかのような視線を…オレへと注いでくる。
なんだかその視線には彼の端正な顔も重なり、妙な艶を含んでいて…加えて手もギュッと、握られたまんまだったから。
誰かさんによく似た、その瞳の色に捕まると…
オレは変に意識してしまい─────
「セツ!」
屋敷の2階から、突然オレを呼ぶ声が耳に入り。
弾かれドキドキしながら、声がした方を仰ぎ見る。
オリバーさんも釣られて見上げたら…
「ル───…え、ちょっ…」
声の主は、やっぱりルーファスで。
見上げた先…2階のバルコニーにて、すぐにその姿を認めたのだけども。
その時にはアイツはもう、既に手摺へと手を掛け身を乗り出して─────
…次には何の躊躇もなく、そこから飛び降りてしまっていた。
「セツ…」
「るっ、う…」
まるで背中に羽が生えてるかのように、ふわりと着地したかと思えば。止 まることなく颯爽と、オレの元まで駆け寄って来たルーファス。
…さらっと自然な流れで、飛び降りて来たけどさ。
アレ、2階だよ?しかも普通の家なんかより天井とか、メチャクチャ造りの高い屋敷の2階からだよ?
なんか平然としてるけど…
呆気にとられたオレは、ひとりぽかんとして。ただただ絶句するのだが…
「オリバー隊長…お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」
「いや、こちらこそ…少々遅くなり、心配させてしまったようだな。」
このふたりは特に大した反応もなく…
ビックリしたまんまのオレを置き去りに、お互い涼しげな様子で挨拶を交わす。
…どうやら一般人のオレの感覚とは、次元が違うみたいだ。
まだルーの登場シーンへの余韻を、払い切れぬオレは。淡々と会話するふたりを、ぼんやりと見上げるしかなく。
一見すると、他愛ない話をしてるはずなんだけど…
なんだろう?
ふたりは何か物思いに耽るかのよう、視線を合わせたまま黙ってしまい…
ちょっと重くなる空気を訝 しみつつ、オレが何も出来ないでいたら。
そんな空気を断ち切るよう…先に口を開いたのは、オリバーさんの方だった。
「さて…部下に仕事を押し付けてしまったし。私は戻ることにしよう。」
ルーに告げ、オレへと向き直るオリバーさんは。
微笑む中で、なんとなく一瞬だけ…寂しそうな表情を、その瞳に纏わせる。
「セツ殿、また機会がありましたら、是非…」
「あ、はい…今日は本当にありがとうございました!」
一礼する彼に、慌ててお辞儀をすれば。今度はにっこりと、満面の笑みを見せてくれて。
そうして映える夕焼けの中、オリバーさんは足早に行ってしまう。
その背中に、オレが大きく手を振ったら…
彼もまた時々振り返っては、律儀に何度も応えてくれた。
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