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「ん…どうしたの、ルー?」 「いや、オリバー団長と随分親しくなったのだな、と…」 さっきから様子のおかしいルーの顔を、仰ぎ見れば。なんだかつまらなそうな物言いで答えられて。 気になって食い入るよう、じ~っと見つめたら。 最初こそは誤魔化して、そわそわしていたけれど… しばらくすると、観念したよう重たい口を開いた。 「…団長と、何を話していたんだ?」 「え?何って…」 普通に今日のお礼とか…そんな程度だったと思うけど? 答えてもルーは、腑に落ちないといった顔で続ける。 「手を、握っていたように見えたが…?」 言われてハッとするオレ。 そういえば、そんなことしてたっけか… ルーが来る直前、ちょっと妙な雰囲気になってたしなぁ…。もしかして、それを気にしてるんだろうか? でも、それって… 「成り行きでさっ…変な意味は、ないんだけど…」 真剣な目でルーに見つめ返され、つい焦ってしまうから。それでもなんとか弁明しようとするのだけど…。 今日に限ってルーは、疑り深くなってるようで…。 まるで見透かそうとでもするかのように、目を細められる。 「…オリバー団長は気さくな方だし、騎士としても誰もが尊敬するような存在だ。きっとセツとも気が合うだろうとは、思っていたが…」 それでも、とルーは伏し目がちに告げる。 「例え誰であっても、このような気持ちになってしまうのだな…」 「ルー…」 はっきりとは言わないルー。 だけどその憂う瞳が、全てを物語っており。 こんな判り易い反応をされたらさ…オレの打たれ弱い心臓なんて、簡単に押し潰されてしまいそうだよ…。 (ルー…) けどオレは耐え偲んで。 紡ぎそうになる言葉を、喉の奥ギリギリで噛み殺す。 「すまない、困らせてしまったな…」 時期に日も暮れるし、皆も待っているからと。 ルーはオレの心情を汲み取り、背を向ける。けど… 卑怯者のオレは、やっぱりその腕に手を伸ばしてしまうから。今度はルーが困ったように苦笑い、眉根を下げてしまった。 「ごめん…オレ、誰とでもすぐ打ち解ける方でさ。だから、その…オレはよく鈍感だって言われるしっ、気も利く方じゃないけど…」 それでも気付いちゃったし、今のルーは誰が見てもあからさまだったから。 「オリバーさんは良い人だし、神子とか関係なしに仲良くしたいなって思ったよ…」 余計なことを言ったら、またルーを不安な気持ちにさせちゃうだろうけど。オレは口下手ながらも、ゆっくりと思ったことを…偽りなく吐き出す。 「オレが中途半端で、何も言わないからっ…ルーを困らせてばっかなのは解ってる。けど…オレはお前のことを、」 “特別だと思ってるよ” 最後の最後で、本音を飲み込み。 許されるギリギリの言葉で、伝える。 狡いのは百も承知… だけどこれが今のオレに出来得る最善、だったんだ。 「それじゃダメ、かな…?」 「セツ…」 ぎゅっとルーの袖を掴み、深緑の瞳を見つめる。 何を言っても、結局はルーを惑わせてしまうことに変わりはないけれど。オレの想いは、どうにか伝わったみたいで… 「いや、私には充分過ぎる言葉だよ…」 応えてルーはオレの手を取り。 何かを誓うかのような柔らかなキスを、甲にそっと落としてくれた。 その後すぐに、ヴィンが咳払いしながら戻って来たので。これ以上…変な空気にはならなかったけども。 言葉は無くても、何処かで通じ合えてることに。 オレはすごく救われているような、気がしたんだ…。

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