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③
「オレは頭使うより体力勝負だかんな、ルーにでも手合わせしてもらおっと~。」
早速とばかりにソファから立ち上がり、談話室の窓際で剣の手入れをするルーの元へ駆け寄るジーナ。
ならそろそろオレも…と、重たい腰を上げて。
ロロに声を掛けようとした瞬間───────
(あ、れ…?…)
ドクンと心臓が険しく脈打ち、思わず息が止まる。
ソレはまるで、内側から膨らんでいくかのように…。不快な耳鳴りを伴い、一気に身体中を駆け巡っていく。
その衝動に耐え切れなくなるオレは…胸を抑え、その場に踞 った。
「セツ…どうしたの!?」
突然床に崩れるオレに、近くにいたロロが慌てて駆け寄ると。
異変に気付いたジーナも、すぐに踵を返し…ルー達3人の足音も、バタバタと近付いて来るのが判る。
「あッ…はあっ…」
「セツ…!!」
ルーが跪き、オレの身体を抱き寄せる。
名前を呼ばれはするけれど…呼吸すら儘ならないため。返事すること叶わず、オレはルーの服を無我夢中で掴むと…訳の分からない衝動に必死で耐えた。
(なんだ、コレ…)
血管が逆流するかのような、異常な感覚が身体中を支配し。チカチカと視界がノイズのように暗転する。
次第にそれは、何か別の景色を象 り始め…
まるで夢の中のような、不鮮明な映像となって。直接脳内へと、映し出されていった。
「セツ、どうした!どこか痛むのか…?」
「…ぁ……」
目を閉じても、脳裏にソレが流れ込んでいき。
走馬灯のような速さで、強制的に情報を与えてくる。
(…ああ…ティコ……?)
一瞬で過 るのに、鮮明に刻み込まれていく映像は。見覚えのある場所を指し示してくる。
それは森への脇道を通り、田畑を越えて。
やがて古びた孤児院に辿り着くと、オレがグリモアとムーバに襲われた小屋のある、森の中を駆け巡って────
「はッ…ぁ…ラル、ゴ…」
ようやく肩で息継ぎし、ルーがオレを支えて。
みんなが見守る中、オレは逸 る心を抑え、ゆっくり呼吸を整えていると。ルーが透かさず背中を擦ってくれた。
「あの、時の…小屋にっ…いたんだ…ラルゴ、がっ…」
一気に情報を流し込まれた所為か、現実と混同してしまい。身体に染み付いた恐怖に煽られ、オレは泣きながら譫言 のように話す。
「誰かと、話して…た…孤児院を、ティコ達が…」
助けに行かなきゃ…そんな思いに駆られ、立ち上がろうとするけど。足に力が入らず、ルーの腕にまた崩れ落ちてしまう。
突然取り乱したオレに、ルー達は困惑しながら。
なんとも悲痛な面持ちを浮かべていた。
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