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「セツ、落ち着くんだ…!」 端から見たら、オレがいきなり乱心し泣き喚いて。さぞ驚いてるだろうけど。 ルーは冷静に、ふらふら立ち上がろうとするオレを(とど)めようと…強く抱き締めてくる。 「るッ…はや、く…はあッ…ああ…」 「セツ、ゆっくり息をして…心を静めるんだ…」 とんとんと、赤子をあやすように。ルーは背中を優しく擦ってくれる。オレの呼吸に合わせるよう、規則的に穏やかに…。 そうすれば段々とオレも、落ち着きを取り戻していった。 「見えた、んだ…あの場所に、魔族が…」 他にも仲間らしき姿があったけれど。 その姿は影よりも朧気で…確かなことは判らない。 「何か話してて…分かんないけど、」 ラルゴが話す影が、指差す方向。そこは孤児院に繋がって… 直感でしかないけど、そこに向かおうとしてるんじゃないかって。だから、 「行かなきゃ…」 (にわか)には信じ難いような、唐突過ぎるオレの発言に。皆は険しい表情のまま、頭を抱える。 「…確証はありませんが、所謂“予知”というものではないかと。」 「予知…」 冷静に分析するヴィンの言葉を、反芻する。 もしそれが本当なら。今オレが見たものは… 「それはつまり、セツが視た事が今から起こりうる、ということかい…?」 「もしくは既に起きていること…かもしれません。」 「そんなッ…!」 アシュとヴィンの遣り取りに、悲鳴を上げるオレは。本能的にまた、飛び出して行こうとするけど… それはやはり、ルーの腕に阻止されてしまう。 「セツ、お前が行ってどうするんだ…!」 「だって…もしかしたらティコ達が、魔族にっ…」 「まだそうと決まったワケじゃねぇだろ!」 ルーとジーナに一喝され、オレは泣きながら項垂れる。 確かにその通りだ。今の映像が、果たして予知なのかも眉唾モノだし… 例えそうだとしても、オレが行ったところで。それこそ神子が、むざむざと殺されに行くようなものだろうから。 それでも、こんなに胸が騒ぐのは… 「る、う…助け、て…」 気のせいかもしれない、ムダなことだと呆れられるかもしれない。 でも確かに、オレの中で何かが訴えてくるんだ。 だけどオレじゃ、どうにもならないから。 縋る思いで、ルーに助けを求めると… 「…案ずるな、セツ。私が行くから。」 まるでオレの心を見透かすように告げるルーファス。無意識に頼ってしまい、今更だけど… 万が一にもルーの身に、何かあったら───── 「オレも、行くっ…」 オレをヴィンに託し、独り行こうとするルーの背中に叫ぶけれど。ルーは振り返り、静かに否定する。 「セツをこれ以上、危険に晒すわけにはいかない。私なら、大丈夫だから…」 お前は此処で待っていろと。ルーは強かに微笑む。 それでもオレには譲りたくない事情があるから。 何が何でも、ついて行こうとしたのだけど… 「ルーひとりじゃ不安なら、俺がついてってやるよ。セツが行くより、百倍マシだろ?」 みかねたジーナが、わざとからかうように手を上げて。オレの肩をポンと軽く叩く。 「だからさ、お姫様は大人しく待っててくれよ。な…?」 「ジーナっ……ありが、と…」 不安はどうしても拭えないけど、ジーナの提案は何よりありがたいし。言ってることは最もだったから…。 オレはジーナに感謝し、ギュッと彼を抱き締めると…その申し出を素直に受け入れるのだった。

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