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「では、行って来る。」 「ルー…ジーナ、ふたりとも気を付けてね…」 後ろ髪を引かれつつも、足早に行ってしまう背中を見送り、オレは嘆息する。 ルーは強い。 まだ若いけど、騎士団最強と言われるほどのオリバーさんとも、渡り合えるくらいの実力だって話だし…。それこそ何度となく、オレを危機から救ってくれた。 実際にムーバを倒した時は、そのあまりの強さに圧倒されちゃったけどさ…。 ジーナも神淵の森では、高位の魔族であるラルゴと対等に戦っていたし。その実力は折り紙付きだ。 だから心配ないと思う…のに。 (なんでだろ…) 脳裏をちらつく、あの悪夢。 一度疑念を抱いてしまったら、どうしても拭い切れない。 今だってずっと、心臓はドキドキして落ち着かないし。震えが止まらないから… 「大丈夫、セツ…?」 座ろうとロロに促され、ソファへと身を預ける。 「身体が震えているけど…まだ何か、見えるのかい?」 アシュも隣に座り、背中を擦ってくれて。 オレは違うと、力無く首を振る。 「気になる事でもあるのですか…?」 未だ不安定なオレに。ヴィンも目線を合わせ、やんわりと問い掛けてきて。見つめ返すと、じっと待つような眼差しを向けられる。 ギリギリまで追い詰められていたオレは、みんなの優しさに縋りたくなって…ぽつりと心の内を、晒し始めた。 「夢を…見るんだ。ルーが危険な目に合う、夢を…何度も…」 “死”という言葉に(はばか)れて、オレは曖昧に続ける。 一度吐き出したら、楽になれるような気がしたのに。実際に紡いだら、より内側で鮮明になってしまい…それはオレの心を酷く蝕んでいく。 そうなると、不安は何度でも蘇るから… (ルー…) 神子の結界で、魔族は弱くなってるというけれど。 オレがふたりを行かせてしまったクセに、後悔がばかりが募る。 魔物もたくさん視えたし、神淵の森での襲撃を考えたら…いくら強くても、ルー達だけで行かせるべきじゃなかったかもしれない。 「やっぱり、行かなきゃ…」 「ちょっと、ダメだよセツ…!」 ふらふらと立ち上がるオレを、ロロが(なだ)めようとするけれど。オレは止まらず、扉の方へと歩き出す。 しかしアシュが、阻むように手を差し出して。 「キミひとりで、どうしようというの?」 まさか歩いて行くの?と… 見上げたアシュは怒っているかのように、真顔で現実を突き付ける。 「けどっ…!」 それ以上は言葉に詰まり、オレはもどかしくも奥歯を噛み締めるしかなく。 だからと言って、じっと待ってるなんて出来ないから。なんとかして思考を巡らせていると…

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