189 / 423
⑤
「では、行って来る。」
「ルー…ジーナ、ふたりとも気を付けてね…」
後ろ髪を引かれつつも、足早に行ってしまう背中を見送り、オレは嘆息する。
ルーは強い。
まだ若いけど、騎士団最強と言われるほどのオリバーさんとも、渡り合えるくらいの実力だって話だし…。それこそ何度となく、オレを危機から救ってくれた。
実際にムーバを倒した時は、そのあまりの強さに圧倒されちゃったけどさ…。
ジーナも神淵の森では、高位の魔族であるラルゴと対等に戦っていたし。その実力は折り紙付きだ。
だから心配ないと思う…のに。
(なんでだろ…)
脳裏をちらつく、あの悪夢。
一度疑念を抱いてしまったら、どうしても拭い切れない。
今だってずっと、心臓はドキドキして落ち着かないし。震えが止まらないから…
「大丈夫、セツ…?」
座ろうとロロに促され、ソファへと身を預ける。
「身体が震えているけど…まだ何か、見えるのかい?」
アシュも隣に座り、背中を擦ってくれて。
オレは違うと、力無く首を振る。
「気になる事でもあるのですか…?」
未だ不安定なオレに。ヴィンも目線を合わせ、やんわりと問い掛けてきて。見つめ返すと、じっと待つような眼差しを向けられる。
ギリギリまで追い詰められていたオレは、みんなの優しさに縋りたくなって…ぽつりと心の内を、晒し始めた。
「夢を…見るんだ。ルーが危険な目に合う、夢を…何度も…」
“死”という言葉に憚 れて、オレは曖昧に続ける。
一度吐き出したら、楽になれるような気がしたのに。実際に紡いだら、より内側で鮮明になってしまい…それはオレの心を酷く蝕んでいく。
そうなると、不安は何度でも蘇るから…
(ルー…)
神子の結界で、魔族は弱くなってるというけれど。
オレがふたりを行かせてしまったクセに、後悔がばかりが募る。
魔物もたくさん視えたし、神淵の森での襲撃を考えたら…いくら強くても、ルー達だけで行かせるべきじゃなかったかもしれない。
「やっぱり、行かなきゃ…」
「ちょっと、ダメだよセツ…!」
ふらふらと立ち上がるオレを、ロロが宥 めようとするけれど。オレは止まらず、扉の方へと歩き出す。
しかしアシュが、阻むように手を差し出して。
「キミひとりで、どうしようというの?」
まさか歩いて行くの?と…
見上げたアシュは怒っているかのように、真顔で現実を突き付ける。
「けどっ…!」
それ以上は言葉に詰まり、オレはもどかしくも奥歯を噛み締めるしかなく。
だからと言って、じっと待ってるなんて出来ないから。なんとかして思考を巡らせていると…
ともだちにシェアしよう!