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『行くぜ…!』 鎮座する魔物達が囲む中、開始する決闘。 吠えるラルゴが先陣を切り、ルーへと襲い掛かった。 神淵の森では、オリバーさんがコイツと戦っていたけど…。所謂パワータイプ、自身と同じくらい巨大な獲物を、軽々とブン回しながら。予想以上の身のこなしで以て攻めてくる。 勢いよく繰り出された横薙ぎの一閃を、するりと(かわ)すルーファス。 止まることなく二手、三手と向けられた攻撃も…ルーはいとも容易く、あしらっていった。 ルーも決して細身な体型じゃないし。 どちらかと言えば、がっしりしてる方だと思う。 彼の扱う長剣だって、本来ならそこそこ重量のある両手持ちらしいのだけど。それを片手でも易々と扱えるのだから…と。ジーナが自分のことみたいに、いつも自慢してたっけ…。 腕力で比べたら、体格の良いラルゴやオリバーさんには敵わないかもしれないけど。 あの俊敏さや、類い稀な魔法の才能も兼ね備えた万能型のルーならば。決して引けを取らないのかもしれない。 『避けるばっかじゃ、話にならねぇぜっ!』 『当たらなければ、同じことではないのか。』 ラルゴが挑発すれば、ルーも淡々とお返しする。 しばらくこんな遣り取りが続いていたが…一瞬の隙を見計らい、ラルゴが打って出た。 『おら…よ!』 『…………』 互いにしか判らぬような間を狙い、ラルゴが戦斧を振りかざして。ブンッと唸りを上げ、空気をも両断する。 当たる────それらは頭ん中に、直接流れる映像でしかないのに。オレは堪らず目を瞑りそうになったけど… ルーはこれもスレスレのところで、見事に躱してみせた。止まることなく、ルーが反撃を開始する。 『チッ……!』 ザンッ…と鋭い音を立てたルーの剣は、僅かにラルゴの腕を捉えており。地を蹴って距離を取る魔族のそこから、鮮血が滲み出る。 『さすがだな…ムーバを殺っただけは、あるじゃねぇか。』 負った傷など意に介さず、ラルゴは楽しげに笑みを溢して。 『…仲間の敵討ちのつもりか?殊勝なことだな。』 既に剣を構えるルーは、感心したように告げる。が… 『はあ…?俺とアイツが仲間だって?』 ラルゴは心外だとばかりに、露骨な拒絶を示した。 『あの野郎は、に媚び売りに来ただけの所謂、腰巾着ってヤツだ。アレと仲間とか…虫酸が走るぜ。』 ムーバを相当嫌っているのか、ラルゴは不快そうに吐き捨てる。 神淵の森の一件も、彼が言うには…ムーバが手柄を得たいがために引き起こしたことだそうで…。 ラルゴは敵対する人間と手を組んだり、卑怯な手段を用いるムーバのやり方が気に入らなかった様子。 『“ジーク”…それがお前達、魔族の王の名か…?』 淡々と耳を傾けるルーファスが、ラルゴに問えば。包み隠す気もないのか、ラルゴもあっさりと肯定してくる。 『王、ねぇ…。人間が勝手にそう呼んでるだけで、俺達魔族に、人間みてぇな秩序なんざ…ありゃしねぇんだけどよ。』 魔族は皆残忍で、誰彼構わず襲ってくるようなイメージだったのに。このラルゴという男はなんだか少し…違うような気がする。 『まあ現状、俺達魔族の中ではジークが一番強えからな。そうなんじゃねーの?』 好戦的ではあるものの…ムーバみたいな卑怯な手は、今のところ使わないみたいだし。 どこまでが真実かは判らないけど、質問以上のことまで隠さず話すから…。 『で…此れはその、王の命令か?』 『……いや。神子は殺せと言われちゃいるがな。元々コイツはムーバの策だったし…』 それをが利用しただけ。 さっきから、ラルゴがそう何度も話していたが… だったら一体…なんだか、胸騒ぎがする…

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