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⑨
『行くぜ…!』
鎮座する魔物達が囲む中、開始する決闘。
吠えるラルゴが先陣を切り、ルーへと襲い掛かった。
神淵の森では、オリバーさんがコイツと戦っていたけど…。所謂パワータイプ、自身と同じくらい巨大な獲物を、軽々とブン回しながら。予想以上の身のこなしで以て攻めてくる。
勢いよく繰り出された横薙ぎの一閃を、するりと躱 すルーファス。
止まることなく二手、三手と向けられた攻撃も…ルーはいとも容易く、あしらっていった。
ルーも決して細身な体型じゃないし。
どちらかと言えば、がっしりしてる方だと思う。
彼の扱う長剣だって、本来ならそこそこ重量のある両手持ちらしいのだけど。それを片手でも易々と扱えるのだから…と。ジーナが自分のことみたいに、いつも自慢してたっけ…。
腕力で比べたら、体格の良いラルゴやオリバーさんには敵わないかもしれないけど。
あの俊敏さや、類い稀な魔法の才能も兼ね備えた万能型のルーならば。決して引けを取らないのかもしれない。
『避けるばっかじゃ、話にならねぇぜっ!』
『当たらなければ、同じことではないのか。』
ラルゴが挑発すれば、ルーも淡々とお返しする。
しばらくこんな遣り取りが続いていたが…一瞬の隙を見計らい、ラルゴが打って出た。
『おら…よ!』
『…………』
互いにしか判らぬような間を狙い、ラルゴが戦斧を振りかざして。ブンッと唸りを上げ、空気をも両断する。
当たる────それらは頭ん中に、直接流れる映像でしかないのに。オレは堪らず目を瞑りそうになったけど…
ルーはこれもスレスレのところで、見事に躱してみせた。止まることなく、ルーが反撃を開始する。
『チッ……!』
ザンッ…と鋭い音を立てたルーの剣は、僅かにラルゴの腕を捉えており。地を蹴って距離を取る魔族のそこから、鮮血が滲み出る。
『さすがだな…ムーバを殺っただけは、あるじゃねぇか。』
負った傷など意に介さず、ラルゴは楽しげに笑みを溢して。
『…仲間の敵討ちのつもりか?殊勝なことだな。』
既に剣を構えるルーは、感心したように告げる。が…
『はあ…?俺とアイツが仲間だって?』
ラルゴは心外だとばかりに、露骨な拒絶を示した。
『あの野郎は、ジークに媚び売りに来ただけの所謂、腰巾着ってヤツだ。アレと仲間とか…虫酸が走るぜ。』
ムーバを相当嫌っているのか、ラルゴは不快そうに吐き捨てる。
神淵の森の一件も、彼が言うには…ムーバが手柄を得たいがために引き起こしたことだそうで…。
ラルゴは敵対する人間と手を組んだり、卑怯な手段を用いるムーバのやり方が気に入らなかった様子。
『“ジーク”…それがお前達、魔族の王の名か…?』
淡々と耳を傾けるルーファスが、ラルゴに問えば。包み隠す気もないのか、ラルゴもあっさりと肯定してくる。
『王、ねぇ…。人間が勝手にそう呼んでるだけで、俺達魔族に、人間みてぇな秩序なんざ…ありゃしねぇんだけどよ。』
魔族は皆残忍で、誰彼構わず襲ってくるようなイメージだったのに。このラルゴという男はなんだか少し…違うような気がする。
『まあ現状、俺達魔族の中ではジークが一番強えからな。そうなんじゃねーの?』
好戦的ではあるものの…ムーバみたいな卑怯な手は、今のところ使わないみたいだし。
どこまでが真実かは判らないけど、質問以上のことまで隠さず話すから…。
『で…此れはその、王の命令か?』
『……いや。神子は殺せと言われちゃいるがな。元々コイツはムーバの策だったし…』
それをアイツらが利用しただけ。
さっきから、ラルゴがそう何度も話していたが…
だったら一体…なんだか、胸騒ぎがする…
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