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⑫
「…ッ…目を開けてくれ、セツ…!!」
こんな風に呼ばれるのは、もう何度目だろうか?
肩を抱かれ、悲痛に叫ぶ声に呼ばれ…
ぼんやりとオレは覚醒する。
うっすらと目を開いたら。
描いていた通りの、愛しい顔が。
切なげにオレを…見下ろしていた。
「ああ…セツ…良かった…」
目覚めたオレを、ギュッと抱き締めるルーファス。
虚ろな記憶を辿れば…
確かルナーという魔族の少年が放った魔法を、受け止めようとしたはず…なのに。
ルーに抱き締められている身体には、与えられる温もり以外、痛みも何も感じられず。
魔法を直接受けたはずの両手は、淡く発光していて…良く見るとその現象は、オレの体全体へと及んでいるみたいだった。
「魔族、は…」
オレはどのくらい意識を失っていたのか…
辺りは雨音以外は静寂を貫き、特に争ったような痕跡も見当たらない。
「奴等は、もういない…」
不思議そうにしていると、ルーがぽつりと答える。
オレに気付いたルーは、ラルゴとの戦いを中断し…急いで此方に向かうも、間に合わず。
オレはルナーの魔法を受け、倒れてしまった。
間髪入れず、オレに駆け寄るルーにコナーが仕掛けて来たらしいけど。何故かラルゴが自ら双子を制して…
半ば強引に、連れ帰ってしまったのだそうだ。
「ラルゴという男は、魔族ではあるが…根底には騎士道に通ずるものを、持ち合わせているのかもしれない。」
ルーとの真剣勝負に水を挿されたラルゴは、随分と不機嫌だったようで。
そう話すルーはなんだか嬉しいような、けれどやっぱり戸惑いもあるような…少し複雑な表情を浮かべ、巨漢の魔族を思い返していた。
確かに…さっき視た映像の中のラルゴも、卑劣なムーバの行動にうんざりとしていたし。
全ての魔族が一貫して、残虐な性格だとは限らないのかもしれないな…。
「ところで、セツは大丈夫なのか…?」
氷の魔力を込められたルナーの術を、まともに食らったオレは。
何気に身体半分ほど、氷漬けにされてしまい。
倒れる寸前、突如光り始めたのだそう。
ルーが駆け付けた時にはもう、何事もなかったかのように氷も溶けていたそうだが…
「怪我は…」
「えっ、ちょッ…る…」
言い出して、いきなりオレの身体をまさぐり始めたルー。
予期せぬ接触に、オレは敏感にもビクンと反応してしまい…思わず悲鳴染みたを声を上げた。
「かなりの威力が、あった筈だが…なんともないのか?」
「あっ…えと、うん…?」
オレも無意識に動いてたから、あんまり覚えてないんだけど。身体はちょっと怠いものの、痛みもないし怪我も見当たらないから…大丈夫そうだ。
魔法が手に直撃した瞬間は、かなりの痛みを感じたはずなんだけどな…。
「この光…たぶんコレの、おかげだと思う…」
改めて光る身体を見やると、
少し弱まってきたものの、未だに温かな光がオレを中心に柱みたく立ち昇っている。
なんだかティコを助けた時に発動した光に似てるから。これも神子の力…治癒魔法の一種なんじゃないかな?
本当なら、ルナーの魔法で死んでてもおかしくなかったんだろうし。
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