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⑤
「セツ…」
ギシリとベッドが軋み。
ルーが近付いて来る気配にも気付いて。
パチリと目を開ける、も…
「言った筈だ…余り俺を煽るな、と…」
「る…っ…ファス…?」
頭上を影が覆い、高鳴る胸を押さえ…見上げたら。
すぐ目の前に、端正なルーの顔が迫っていた。
「る、ま…って…」
慌てて起き上がろうとすれば、両手をベッドへと押さえつけられてしまい。
じっと見下ろす深緑の眼が、明らかな色を纏って…オレのそれを縛り付ける。
「俺を挑発したのは…セツだろう?」
「あっ…!」
ぐっと近付く距離、密着する身体に。
そこからぶわりと熱が生まれる。
足掻こうとしても、今のルーは頑なで。
掴む腕は、ぴくりとさえ動いてはくれない。
同時に一人称を変え、雄臭く豹変してしまうルー。
そんな姿を見せつけられるオレは…
本能的な恐怖に怯え、目を潤ませた。
「そんな瞳 をして…また俺を惑わすのか、セツ…」
「ひゃ…ぁッ…」
目尻に溜まる涙を見て、ルーが顔を近付けてくる。
思わず目を閉じたら…そこをペロリと舐められて。
そのまま唇の感触が、こめかみ、頬にゆっくり押し付けられていき…
最後に耳元へと、吐息が掛かったかと思えば。
そこから直接、名前を囁かれてしまった。
もうわけが分からなくて。
オレの思考はどろどろに溶かされ…ちっとも働いてはくれないから。
いつになく妖艶で意地の悪いルーファスに。
オレはただただ、魅せられてしまうのだった。
「俺とて、驚いているんだ…」
自分の中にも、このような欲があったのか…と。
ルーはオレの耳朶を甘く噛みながら、独り言のように告げる。
ぼやける視界で認めたルーの瞳は、その言葉通りに戸惑いを孕んでおり。
それでも、その得体の知れぬ衝動が。
時折抑え切れなくなるのだ、と…苦しげに自嘲してみせた。
「セ、ツ…」
「るっ…───んンっ…!」
告げるや否や、理性を切り捨てたルーが扇情的にオレの目を捕まえてきて。
名を紡ぐその唇で…今度は無遠慮に、奪っていく。
箍が外れた行為は、今までにないぐらい淫らな音を室内に響かせて…
誘惑にとことん弱いオレの理性もまた。
秒速で消え失せ、気付いたら夢中になっていた。
「ぁ…るう…っ…」
「はッ…ぁ…」
これ以上、こんな行為に身を委ねてたら。
本当に…抜け出せなくなってしまう。
そんな現実的な考えとは裏腹に、身体は素直に熱を訴えており。刺激を与えられたらその分だけ、熱は身体の中心へと誘われてくから…。
身体はルーに覆い被され、ぴたりと隙間なく密着しているし。このままじゃ、ルーに反応しているのが暴かれちゃうかもしれない…
そう、僅かに残る自我を奮い…なんとか身体を離そうと、無理やりに半身を捩ったのだけど─────
「…あ…っ…」
「ッ……!」
膝を立てようとした瞬間、ルーのソレへと掠めてしまい…重ねたままの唇を、慌てて離してしまったルーファス。
呼吸もままならず、息も絶え絶えに。
揺れる瞳とぶつかれば、なんとも気まずい空気が互いの間に流れて…
しんとする室内に、互いの生々しい息遣いだけが…ねっとりと耳に纏わり付いてきた。
「はぁ……すま、ない…」
どうかしていたと、一瞬で冷静になるルーファスがぎこちなく離れてく。
熱を失う寂しさに苛まれながらも。
これ以上はもう、踏み込んではいけないと悟り…
オレは己の身体を抱きながら。
背を向けるルーを、虚ろな意識で仰ぎ見るしかなかった。
「頭を、冷やして来るから…」
お前は部屋に戻るんだと、
息を正しながら切なげに告げられる。
オレが動けず、黙っていると…
「此処にいたら…次はどうなるか判らない。これ以上は、抑え切れないから…」
低く威嚇するように、ルーは淡々と警告する。
それでも隠し切れないオレへの下心が。
荒い吐息と声音 に含まれているのに、気付いてしまうから…
「うん……ごめんっ…」
オレは真っ赤な顔で涙を堪えながら、素直に頷いた。
「いや…私こそ、すまなかった…」
去り際に、少しだけ振り返るルーの瞳は…言い表せないほどの感情に揺れていて。
切なく笑う、その姿が。
扉の向こうへと消えるのを、必死に耐え忍ぶ。
…扉が閉じられた途端に、オレは踞 ると。
主のいなくなったベッドの上、もて余した熱も抱えたまんま。
独り嗚咽を漏らし、涙を流した。
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