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夜になり、オレはまたルーを部屋へと誘う。 昨日の今日でルーも相当迷ってたけど。オレは悪い癖を出し、半ば強引にルーを自室に連れ込んだ。 なんでか分からないけど… 今日はどうしても離れたくなかったんだよね。 まあ、それは常に思ってることではあるから。 言い訳にもならないんだけどさ…。 「…でさ、ヴィンは勉強しなくて良いって言ってたクセにだぞ?オレが本枕にしてダラダラしてるとこに、たまたま帰って来たと思ったら…また説教が始まってさ~…」 「そうか…それは災難だったな。」 とか言いつつ…実際ふたりきりになったら、すぐ変な空気になっちゃうだろう? そしたらオレ、すぐ甘えたくなっちゃうからさ…。 元々こんな喋る性格でもないのに、話題を探してはベラベラと饒舌を(かた)るわけで。 矛盾しまくりだけど… 誰だって好きな相手には、出来るだけ傍にいて欲しいって思っちゃうもんだよね…。 「もう、こんな時間か…」 時計は22時を過ぎた頃。 子どもじゃないから、遅いという時間でもないのだけれど… 「明日は皆で、陛下のもとに参らねばならないからな…」 早めに休んだ方がいいと、名残惜しそうにルーは立ち上がる。 「あ……」 そこでもう、無意識に手を伸ばしていたオレだったが… 「セツ…?」 「あ、えとっ…」 出しかけた手を反対の腕で押さえ、俯く。 さすがにこれ以上は甘えちゃいけない、自分を許してはいけない。 オレには神子としての責務があり… 世界を救って。この拭えぬ不安を全て消し去らなきゃ。 先へは、進めないんだから…。 なけなしの理性を奮って、なんとかこの場を遣り過ごそうと頭を巡らす。 でも、顔にはしっかり本音が出てるんだろう。 オレの様子を受けルーは、目の前へ跪くと…そっと顔を覗き込んできた。 「セツ…」 「ごめ…なんでもないからっ…」 おやすみって、そう笑って誤魔化せたはずだった。 メンタル弱々なオレにしては、良く頑張ったって誉めてやりたいくらいに。 けれど… 「セツ…」 「あっ…」 まさかルーの方から、触れてくるとは…思ってもみなくて。 不意打ちに肩を引かれ、見上げれば… 秘める想いを滲ませた緑柱石の瞳がもう、間近へと迫って──── 「ンっ…」 ああ、こんなことあってはならないのに。 愛しい人から与えられる温もりに…押し流され、溺れる。 いつもはオレが我が儘ばかりで… それをルーが受け入れてくれてたのに。 向こうからキスなんてされたら。 オレは、どうしたらいいのか分からなくなるよ… 「ん…はぁっ…ぁ…」 「セツ…ッ…」 触れる唇が、唇を伝って名を紡ぐ。 振動は、痺れるぐらいの快楽を与えてきて…容赦なく、この身を焦がしていく。 そうなれば座ってることさえ出来なくなり… オレは脱力する手で、ルーの胸に無我夢中でしがみついた。 (ルー……) 大好き。 言葉にならない想いは、 物言わぬ涙となって溢れ出す。 もういっそ、このまま地の底まで堕ちていけたらいいのに。と… 邪なことを考えていたら… 「セ、ツ…」 少しだけ離れた唇に。 ツー…と淫らな糸が伸びては、途切れる。 それは行為を煽るよう、厭らしく見えて。 ぶわりと頬に、熱が溜まる。 「俺、は…」 ルーの唇に、目を奪われる。 それが何かを紡ごうとしていて。 オレはきっと、その言葉を欲しがっている。 …けど、それはまだ許してはいけないと。 心の奥底で、警笛が鳴り響くから。 「セツ、俺はお前を─────」 最後まで聞きたかった。 でもオレは聞こえないフリをして。 その唇を、残酷にも… キスで塞ぐんだ。 「セツ…」 オレは卑怯だ。 いくら言えないからって、ルーファスの心を散々弄んでさ… いざとなったら自分だけ逃げて、こんなに苦しめて。 最低じゃんか… 「セツ…泣かないでくれ…」 すまないと告げるルーに、返す言葉もなくて。 オレはただ子どもみたく泣きじゃくる。 そうなれば、ルーは決まって優しく抱き締めてくれて。 オレは隠れるよう、その胸に顔を埋め。 漏れる嗚咽を圧し殺した。

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