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⑨
夜になり、オレはまたルーを部屋へと誘う。
昨日の今日でルーも相当迷ってたけど。オレは悪い癖を出し、半ば強引にルーを自室に連れ込んだ。
なんでか分からないけど…
今日はどうしても離れたくなかったんだよね。
まあ、それは常に思ってることではあるから。
言い訳にもならないんだけどさ…。
「…でさ、ヴィンは勉強しなくて良いって言ってたクセにだぞ?オレが本枕にしてダラダラしてるとこに、たまたま帰って来たと思ったら…また説教が始まってさ~…」
「そうか…それは災難だったな。」
とか言いつつ…実際ふたりきりになったら、すぐ変な空気になっちゃうだろう?
そしたらオレ、すぐ甘えたくなっちゃうからさ…。
元々こんな喋る性格でもないのに、話題を探してはベラベラと饒舌を騙 るわけで。
矛盾しまくりだけど…
誰だって好きな相手には、出来るだけ傍にいて欲しいって思っちゃうもんだよね…。
「もう、こんな時間か…」
時計は22時を過ぎた頃。
子どもじゃないから、遅いという時間でもないのだけれど…
「明日は皆で、陛下のもとに参らねばならないからな…」
早めに休んだ方がいいと、名残惜しそうにルーは立ち上がる。
「あ……」
そこでもう、無意識に手を伸ばしていたオレだったが…
「セツ…?」
「あ、えとっ…」
出しかけた手を反対の腕で押さえ、俯く。
さすがにこれ以上は甘えちゃいけない、自分を許してはいけない。
オレには神子としての責務があり…
世界を救って。この拭えぬ不安を全て消し去らなきゃ。
先へは、進めないんだから…。
なけなしの理性を奮って、なんとかこの場を遣り過ごそうと頭を巡らす。
でも、顔にはしっかり本音が出てるんだろう。
オレの様子を受けルーは、目の前へ跪くと…そっと顔を覗き込んできた。
「セツ…」
「ごめ…なんでもないからっ…」
おやすみって、そう笑って誤魔化せたはずだった。
メンタル弱々なオレにしては、良く頑張ったって誉めてやりたいくらいに。
けれど…
「セツ…」
「あっ…」
まさかルーの方から、触れてくるとは…思ってもみなくて。
不意打ちに肩を引かれ、見上げれば…
秘める想いを滲ませた緑柱石の瞳がもう、間近へと迫って────
「ンっ…」
ああ、こんなことあってはならないのに。
愛しい人から与えられる温もりに…押し流され、溺れる。
いつもはオレが我が儘ばかりで…
それをルーが受け入れてくれてたのに。
向こうからキスなんてされたら。
オレは、どうしたらいいのか分からなくなるよ…
「ん…はぁっ…ぁ…」
「セツ…ッ…」
触れる唇が、唇を伝って名を紡ぐ。
振動は、痺れるぐらいの快楽を与えてきて…容赦なく、この身を焦がしていく。
そうなれば座ってることさえ出来なくなり…
オレは脱力する手で、ルーの胸に無我夢中でしがみついた。
(ルー……)
大好き。
言葉にならない想いは、
物言わぬ涙となって溢れ出す。
もういっそ、このまま地の底まで堕ちていけたらいいのに。と…
邪なことを考えていたら…
「セ、ツ…」
少しだけ離れた唇に。
ツー…と淫らな糸が伸びては、途切れる。
それは行為を煽るよう、厭らしく見えて。
ぶわりと頬に、熱が溜まる。
「俺、は…」
ルーの唇に、目を奪われる。
それが何かを紡ごうとしていて。
オレはきっと、その言葉を欲しがっている。
…けど、それはまだ許してはいけないと。
心の奥底で、警笛が鳴り響くから。
「セツ、俺はお前を─────」
最後まで聞きたかった。
でもオレは聞こえないフリをして。
その唇を、残酷にも…
キスで塞ぐんだ。
「セツ…」
オレは卑怯だ。
いくら言えないからって、ルーファスの心を散々弄んでさ…
いざとなったら自分だけ逃げて、こんなに苦しめて。
最低じゃんか…
「セツ…泣かないでくれ…」
すまないと告げるルーに、返す言葉もなくて。
オレはただ子どもみたく泣きじゃくる。
そうなれば、ルーは決まって優しく抱き締めてくれて。
オレは隠れるよう、その胸に顔を埋め。
漏れる嗚咽を圧し殺した。
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