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⑩
「もう、戻るから…」
「うん…」
最後に一度だけ。
どちらとなく触れるだけのキスを交わして。
ルーは部屋を後にする。
暫くは茫然としていたけど…
部屋の灯りを全て消すと、オレは雪崩れ込むようにして。ベッドへと身を委ねた。
窓の向こう…
夜空に浮かぶ月明かりが、火照る身体を照らし出す。
(ああ…)
ルーに与えられた熱は、簡単には冷めなくて。
自身を抱 き踞 る。
無理矢理に抑え込もうとしても、中心はじんと膨らみ。早く吐き出してしまえと…無情に訴えてくるのだ。
(サイテーだ…)
昨日シたばかりなのに。馬鹿みたく発情して…。
ルーを苦しめてるクセに、何やってんだろ…
「る、う…」
自嘲しながら欲に苛まれ、また右手を伸ばす。
日頃抑えつけてる反動が。
代わりに欲を吐き出すことで、隙間を満たそうとしてるみたいで…止められない。
「るっう…あ…ッ…」
無意識に名を呼び、想像する。
あの緑柱石の瞳に見つめられ、その逞しい腕に抱かれて。
唇が名を囁き、甘い口付けを与える。
それから─────
「るっ…あっ、好きッ…ああ…」
目の前にいないと知って、本音を口走る。
もうこのままじゃ、自ら暴いてしまいそうだから。
今ここで、全部吐き出しておかなきゃ…
「ルー…っ…ルーファス…」
静か過ぎる部屋に響く、卑猥な息遣いと粘着音。
冷静でいられたら…
その異様さに、気付けていたかもしれないのに。
今のオレは、自らを慰めるのに夢中で。
ソレはゆっくりと、忍び寄る。
(ああ、もう…)
イキそう…迫る頂に、
右手を強く握ったその瞬間、
「聖なる神子とは、なかなかに…淫靡 なイキモノなんだな。」
「ッ……!!」
ゾクリと背中に悪寒が走り、我に返る。
その声はまさに耳元、吐息混じりに直接囁かれて。
そこで初めて、異変に気付かされた。
「なっ…」
「いいのか?まだ途中なんだろ?」
代わりに慰めてやろうかと、
振り返った先…ギラリと光る双眸とぶつかり。
オレは反射的に逃げようとしたけれど…
腕を捕まれ、のし掛かられた。
「だれ、だっ…」
震える声を絞り出す。
知らない男…だった。
けど、一目で解った。
この男は、危険である─────と。
その姿は人為らざる者。
長く尖った耳に、鍛え抜かれた体躯は浅黒くも妖艶で勇ましく。
月夜に反射する白髪 と…
餓えた獣みたいにギラついた、黄金色の瞳。
それらはまさしく、魔族を知らしめる。
そして…
「俺か?俺の名は─────」
“ジークリッド”
それはラルゴが口にした、
魔族の頂点に立つ者の名前────だった。
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