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「もう、戻るから…」 「うん…」 最後に一度だけ。 どちらとなく触れるだけのキスを交わして。 ルーは部屋を後にする。 暫くは茫然としていたけど… 部屋の灯りを全て消すと、オレは雪崩れ込むようにして。ベッドへと身を委ねた。 窓の向こう… 夜空に浮かぶ月明かりが、火照る身体を照らし出す。 (ああ…) ルーに与えられた熱は、簡単には冷めなくて。 自身を(いだ)(うずくま)る。 無理矢理に抑え込もうとしても、中心はじんと膨らみ。早く吐き出してしまえと…無情に訴えてくるのだ。 (サイテーだ…) 昨日シたばかりなのに。馬鹿みたく発情して…。 ルーを苦しめてるクセに、何やってんだろ… 「る、う…」 自嘲しながら欲に苛まれ、また右手を伸ばす。 日頃抑えつけてる反動が。 代わりに欲を吐き出すことで、隙間を満たそうとしてるみたいで…止められない。 「るっう…あ…ッ…」 無意識に名を呼び、想像する。 あの緑柱石の瞳に見つめられ、その逞しい腕に抱かれて。 唇が名を囁き、甘い口付けを与える。 それから───── 「るっ…あっ、好きッ…ああ…」 目の前にいないと知って、本音を口走る。 もうこのままじゃ、自ら暴いてしまいそうだから。 今ここで、全部吐き出しておかなきゃ… 「ルー…っ…ルーファス…」 静か過ぎる部屋に響く、卑猥な息遣いと粘着音。 冷静でいられたら… そのに、気付けていたかもしれないのに。 今のオレは、自らを慰めるのに夢中で。 はゆっくりと、忍び寄る。 (ああ、もう…) イキそう…迫る頂に、 右手を強く握ったその瞬間、 「聖なる神子とは、なかなかに…淫靡(いんび)なイキモノなんだな。」 「ッ……!!」 ゾクリと背中に悪寒が走り、我に返る。 その声はまさに耳元、吐息混じりに直接囁かれて。 そこで初めて、異変に気付かされた。 「なっ…」 「いいのか?まだ途中なんだろ?」 代わりに慰めてやろうかと、 振り返った先…ギラリと光る双眸とぶつかり。 オレは反射的に逃げようとしたけれど… 腕を捕まれ、のし掛かられた。 「だれ、だっ…」 震える声を絞り出す。 知らない男…だった。 けど、一目で解った。 は、危険である─────と。 その姿は人為らざる者。 長く尖った耳に、鍛え抜かれた体躯は浅黒くも妖艶で勇ましく。 月夜に反射する白髪(はくはつ)と… 餓えた獣みたいにギラついた、黄金色の瞳。 それらはまさしく、魔族を知らしめる。 そして… 「俺か?俺の名は─────」 “ジークリッド” それはラルゴが口にした、 魔族の頂点に立つ者の名前────だった。

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