210 / 423

「やめ、ろッ…」 「ふん…さっきまで野郎相手に、慰めてた奴が言うのか?」 「ああッ…!」 咄嗟に隠した下半身を、着衣の上から掴まれて… オレは堪らず身体を仰け反らせる。 しかし力量は歴然で。 拘束された腕はびくともせず。 走る鈍い痛みに、オレの口からは悲鳴が溢れた。 「ムーバの野郎にも、襲われたらしいな…神子?」 「ッ……」 「まさか魔族が神子に手を出すとは…とんだ物好きもいたもんだと、呆れてたが…」 肉食獣のような眼光で、オレという獲物を縛り上げる。 まるで値踏みするかのようなその視線は、恐怖しか生み出さない。 「魔族と相容れない神子と交わろうなんざ…イカれてるとしか思えねぇだろ?」 あくまで神子は宿敵。 魔族の中ではそれが、呼吸するのと同じくらい自然なこと。 「悪知恵ばかり働いて、鬱陶しい奴だったが…まさに想定外。ムーバが俺を欺いてまで、神子を手に入れようとしたのも…今は、理解出来なくもないな…。」 「ひ…ああッ…!」 片手で腕を押さえ付け、もう片方を胸元へと這わせる。 爪を立てるよう、指で寝間着をなぞり始めたと思えば…それはナイフのようにあっさり布を引き裂いて。オレの素肌を容易く晒け出した。 爪がなぞった箇所には、うっすらと血が滲む。 「これも神子の力というやつか?…お前は随分と、甘ったるい匂いを撒き散らすじゃねぇか…」 「なに、をっ…」 気付いてないのか…と。 ジークリッドは首筋に顔を寄せ、鼻を鳴らす。 熱い吐息に、オレが顔を叛けようとすれば。顎を掴まれ阻止されてしまった。 目の前の魔族は、不敵な笑みを浮かべる。 「神子と結ばれたら奇跡の力を得る…人の世じゃ、そんなお伽噺があるんだろ?」 なら人以外の種族なら? 遥か昔から存在するのに、人間も魔族も。 誰もが先入観に阻まれ、行き着かなかった疑問を。 嬉々として語り始めるジークリッド。 「確かめる価値はあるのかと、見定めに来ただけだったが。どうやら俺も…魅せられちまったようだ。」 「やめ…はな、せッ…」 「まさかこの俺が、興味を抱くとはな…」 長い指の腹で、胸の突起を()られ。 快楽とは真逆の刺激に、拒絶して鳥肌が立つ。 「ヌいてる時のお前の顔、スゲェ厭らしくて興奮したよ…」 「ッ…!」 「ふは…さあて、お前を抱いたら…どうなっちまうんだろうな?」 それは魔族の破滅か、繁栄か。 今まで神子と魔族の関係が覆ることなく… このまま因果の鎖からも逃れられず、延々と惨めに生かされるぐらいなら。 試す価値はあるだろう、と。 「いや…ッ…」 「ちゃんと気持ち悦くしてやるよ…お前だって、もて余してたんだろ…?」 「ちがっ…───あああッ…!!」 手つきが厭らしいものに変わり、恐怖に駆られ悲鳴を上げるオレは。 「る…ルー…!ルーファス…!」 助けてと、本能的に頭に浮かぶ名を、大声で叫ぶのに… 「さっきまでヌいてた時の相手か?残念だが、届かねぇよ…」 言ってジークリッドは、冷ややかに笑む。 ルー達の部屋は同じ階で、すぐそこ。 屋敷内にはメイドさん達だって、沢山いるんだから。 これだけオレが泣き叫んでれば、誰かが来てもおかしくなかったはず。 なのに… 「俺も単身で来てるからな…とはいえ、一応先代神子の結界もあるし。小細工しねぇと簡単には入れねぇんだよ。」 空間を歪め、この部屋だけを外界から切り離す。 そうして一時的に、瘴気を満たした魔族の領域を造り出して。神子の結界を無力化したのだと… 魔族は惜しげもなく答える。 それは絶対的な自信があるからなのか… こんな荒業まで、成し得てしまうだなんて。 今なら神様が、魔族を脅威だと判断したのも… 理解出来る気がした。

ともだちにシェアしよう!