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⑫
「やめ、ろッ…」
「ふん…さっきまで野郎相手に、慰めてた奴が言うのか?」
「ああッ…!」
咄嗟に隠した下半身を、着衣の上から掴まれて…
オレは堪らず身体を仰け反らせる。
しかし力量は歴然で。
拘束された腕はびくともせず。
走る鈍い痛みに、オレの口からは悲鳴が溢れた。
「ムーバの野郎にも、襲われたらしいな…神子?」
「ッ……」
「まさか魔族が神子に手を出すとは…とんだ物好きもいたもんだと、呆れてたが…」
肉食獣のような眼光で、オレという獲物を縛り上げる。
まるで値踏みするかのようなその視線は、恐怖しか生み出さない。
「魔族と相容れない神子と交わろうなんざ…イカれてるとしか思えねぇだろ?」
あくまで神子は宿敵。
魔族の中ではそれが、呼吸するのと同じくらい自然なこと。
「悪知恵ばかり働いて、鬱陶しい奴だったが…まさに想定外。ムーバが俺を欺いてまで、神子を手に入れようとしたのも…今は、理解出来なくもないな…。」
「ひ…ああッ…!」
片手で腕を押さえ付け、もう片方を胸元へと這わせる。
爪を立てるよう、指で寝間着をなぞり始めたと思えば…それはナイフのようにあっさり布を引き裂いて。オレの素肌を容易く晒け出した。
爪がなぞった箇所には、うっすらと血が滲む。
「これも神子の力というやつか?…お前は随分と、甘ったるい匂いを撒き散らすじゃねぇか…」
「なに、をっ…」
気付いてないのか…と。
ジークリッドは首筋に顔を寄せ、鼻を鳴らす。
熱い吐息に、オレが顔を叛けようとすれば。顎を掴まれ阻止されてしまった。
目の前の魔族は、不敵な笑みを浮かべる。
「神子と結ばれたら奇跡の力を得る…人の世じゃ、そんなお伽噺があるんだろ?」
なら人以外の種族なら?
遥か昔から存在するのに、人間も魔族も。
誰もが先入観に阻まれ、行き着かなかった疑問を。
嬉々として語り始めるジークリッド。
「確かめる価値はあるのかと、見定めに来ただけだったが。どうやら俺も…魅せられちまったようだ。」
「やめ…はな、せッ…」
「まさかこの俺が、興味を抱くとはな…」
長い指の腹で、胸の突起を擦 られ。
快楽とは真逆の刺激に、拒絶して鳥肌が立つ。
「ヌいてる時のお前の顔、スゲェ厭らしくて興奮したよ…」
「ッ…!」
「ふは…さあて、お前を抱いたら…どうなっちまうんだろうな?」
それは魔族の破滅か、繁栄か。
今まで神子と魔族の関係が覆ることなく…
このまま因果の鎖からも逃れられず、延々と惨めに生かされるぐらいなら。
試す価値はあるだろう、と。
「いや…ッ…」
「ちゃんと気持ち悦くしてやるよ…お前だって、もて余してたんだろ…?」
「ちがっ…───あああッ…!!」
手つきが厭らしいものに変わり、恐怖に駆られ悲鳴を上げるオレは。
「る…ルー…!ルーファス…!」
助けてと、本能的に頭に浮かぶ名を、大声で叫ぶのに…
「さっきまでヌいてた時の相手か?残念だが、届かねぇよ…」
言ってジークリッドは、冷ややかに笑む。
ルー達の部屋は同じ階で、すぐそこ。
屋敷内にはメイドさん達だって、沢山いるんだから。
これだけオレが泣き叫んでれば、誰かが来てもおかしくなかったはず。
なのに…
「俺も単身で来てるからな…ハリボテとはいえ、一応先代神子の結界もあるし。小細工しねぇと簡単には入れねぇんだよ。」
空間を歪め、この部屋だけを外界から切り離す。
そうして一時的に、瘴気を満たした魔族の領域を造り出して。神子の結界を無力化したのだと…
魔族は惜しげもなく答える。
それは絶対的な自信があるからなのか…
こんな荒業まで、成し得てしまうだなんて。
今なら神様が、魔族を脅威だと判断したのも…
理解出来る気がした。
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