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「るうっ…ルー…!!」 「ムダだっつってんだろ…?」 絶望的な状況に置かれても、オレはひたすら名を叫ぶ。 けれど声は不自然に響かず。 薄闇に吸い込まれるようにして、掻き消されてしまい… そんな抵抗も虚しく、ジークリッドは顔を首筋に埋めてきて…噛みつくように舌を這わせてくるから。 堪らず涙を流しながらも。 オレは信じて、彼の名を呼び続けた。 (ルー…助けてよ…!) オレが欲しいのは、お前だけなのに。 こんな愛情も何も無視した、一方的な暴力なんて… オレは望んでなんかいない。 本当はルーに触れて欲しかった。 キスされて、すっごく幸せだった。 いっそお前が言い掛けた言葉を受け入れて。 自分の気持ちも、正直に伝えてしまえば… 良かったのかな? そうすれば、他人に汚される前に。 オレの全てを捧げられたのに… 「いやっ…だあッ…」 「は…泣き顔も、たまんねぇな…」 誘ってんのかと、粟立つ胸の尖りに食い付かれ。 走る痛みに、身体が反射的に跳ね上がる。 「誰が、お前なんか…にッ…」 「そんな顔して、説得力ねぇんだよ…」 負けじと睨み付けても…ジークリッドは鼻で笑い、オレの胸にわざと歯を立ててくる。 それでもオレが、ルーの名を呼び続けていたら。 ジークリッドは酷く冷たい表情を浮かべ、腕へと爪を食い込ませてきた。 「いッ…!」 「騎士の男の名前だろ?ソイツにはまだ、抱かれてねぇのか…?」 残念だったな… ジークリッドは勝ち誇ったよう囁く。 「ルーは、来るよっ…」 初めて会った日に誓いを立ててくれた。 オレに何かあったら、必ず助けてくれた。 こうして名前を呼んだら、いつだって… (信じてる…) 約束してくれたんだ、傍にいるって。 オレを護るって。だから。 「お前なんかに、奪われやしない…」 心も体も、神子の力も。 オレが触れて欲しいのは、全て奪って欲しいと願うのは。 ただひとり。 「別に俺は、お前の意思なんか必要無い。欲しいと思えば、力で捩じ伏せればいいだけの話だからな。」 それが魔族の本能。 体現して、ジークリッドは獣のように。 オレへと襲い掛かる。 これが魔族の王。 力でその座に君臨し… 今まさに、宿敵である神子をも奪おうとしている。 (ルー…お願い…) 悪足掻きだって解ってる。 けど、絶対に諦めたりしないから。 だから、 「セツ…!!」 信じてるよ。 お前はオレだけの、ナイトなんだって。

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