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⑬
「るうっ…ルー…!!」
「ムダだっつってんだろ…?」
絶望的な状況に置かれても、オレはひたすら名を叫ぶ。
けれど声は不自然に響かず。
薄闇に吸い込まれるようにして、掻き消されてしまい…
そんな抵抗も虚しく、ジークリッドは顔を首筋に埋めてきて…噛みつくように舌を這わせてくるから。
堪らず涙を流しながらも。
オレは信じて、彼の名を呼び続けた。
(ルー…助けてよ…!)
オレが欲しいのは、お前だけなのに。
こんな愛情も何も無視した、一方的な暴力なんて…
オレは望んでなんかいない。
本当はルーに触れて欲しかった。
キスされて、すっごく幸せだった。
いっそお前が言い掛けた言葉を受け入れて。
自分の気持ちも、正直に伝えてしまえば…
良かったのかな?
そうすれば、他人に汚される前に。
オレの全てを捧げられたのに…
「いやっ…だあッ…」
「は…泣き顔も、たまんねぇな…」
誘ってんのかと、粟立つ胸の尖りに食い付かれ。
走る痛みに、身体が反射的に跳ね上がる。
「誰が、お前なんか…にッ…」
「そんな顔して、説得力ねぇんだよ…」
負けじと睨み付けても…ジークリッドは鼻で笑い、オレの胸にわざと歯を立ててくる。
それでもオレが、ルーの名を呼び続けていたら。
ジークリッドは酷く冷たい表情を浮かべ、腕へと爪を食い込ませてきた。
「いッ…!」
「騎士の男の名前だろ?ソイツにはまだ、抱かれてねぇのか…?」
残念だったな…
ジークリッドは勝ち誇ったよう囁く。
「ルーは、来るよっ…」
初めて会った日に誓いを立ててくれた。
オレに何かあったら、必ず助けてくれた。
こうして名前を呼んだら、いつだって…
(信じてる…)
約束してくれたんだ、傍にいるって。
オレを護るって。だから。
「お前なんかに、奪われやしない…」
心も体も、神子の力も。
オレが触れて欲しいのは、全て奪って欲しいと願うのは。
ただひとり。
「別に俺は、お前の意思なんか必要無い。欲しいと思えば、力で捩じ伏せればいいだけの話だからな。」
それが魔族の本能。
体現して、ジークリッドは獣のように。
オレへと襲い掛かる。
これが魔族の王。
力でその座に君臨し…
今まさに、宿敵である神子をも奪おうとしている。
(ルー…お願い…)
悪足掻きだって解ってる。
けど、絶対に諦めたりしないから。
だから、
「セツ…!!」
信じてるよ。
お前はオレだけの、ナイトなんだって。
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