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「…なら、お前を討てば、」 言いながら、ルーはオレを一瞥し…告げる。 「セツは…自由になれるのだなっ…!」 またも先手を打ち、剣に淡い光を宿す。 刃を包むそれは、蒼白く煙のように立ち昇り… ルーの姿が一瞬消えたかと思えば、(くう)を切って高く跳躍し。 ジークリッドの頭上目掛け、放たれる。 「チッ……!」 武器を持たぬジークリッドは、自身の腕に魔力のようなものを素早く集めていくと。 あろうことか、勢い良く繰り出されたルーの剣撃を。その素手で…当然のように受け止めてしまったのだ。 瞬間、それらがガツンッと鈍い金属音を鳴らし。 剣と腕で、互い負けじと鍔迫り合う。 「さすがは守護騎士、神子の末裔と言われるだけはあるな…」 ますます神子に興味が湧いたと、わざとらしくオレを見て告げるジークリッド。 対するルーファスは、静かに激昂する。 「セツには、指一本触れさせはしない…!」 俺が護る────… 吠えたルーの背中を、オレは祈るように見守る。 この異質な空間の所為か、身体の震えが止まらない。 けどルーは、オレを守るために戦っているのだから。 何も出来ないけど、せめてルーの無事を…と。 強く神様に縋る思いで願った。 「俺が欲しいと思ったモノは、全て手に入れてきたんだ…」 魔族の天辺もそう、一度の例外も無く全て。 「神子を手にし…この俺が、歴史をも覆してやるよ。」 神子と魔族の因縁を。 ジークリッドは高らかに宣言する。 「させるものか…!!」 刹那…競り合う刃を受け止めるジークリッドが、勢い良くそれを押し返して。同時に生み出された衝撃波が、ルーを軽々と吹き飛ばす。 体勢を崩すも、すぐに立て直すルーは…止まることなく反撃に打って出た。 「遅ぇんだよ…!」 先を読むジークリッドは、自身の手を双剣のように扱い。ルーの剣を受け流す。 しばらく連撃は続き、火花を散らしたが… 「終いだな…!」 傍目からでは判らぬ、ほんの僅かな隙を突いて。 ジークリッドの手刀が一層暗い闇を纏い、煌めく。 「させぬ…!」 それでもルーは上手く身体をしならせ、ジークリッドの手刀を躱して。 反撃に、転じるのだが──────… 「ルー…ッ!!」 オレが叫んだ瞬間、 ルーとジークリッドの身体が重なり… 時が止まる。 「…………」 二人は暫し動かなかったが… 「る、う…?…」 オレは無意識に立ち上がる。 なんだか胸の奥がざわついて、落ち着かない。 「ぐッ…」 ルーの口から呻き声が漏れ、ジークリッドの腕を掴む。 掴んだ手刀の切っ先は、 ルーの胸に、食い込んで、いて… 「はッ…惜しかったな…」 笑いながら、 苦痛に顔を歪ませるジークリッドの脇腹には… ルーの剣が、深く突き刺さっていた。

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