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⑯
「るっ…ルーッ…!!!」
ジークリッドが自身に刺さる剣の刃を掴み、引き抜くと…同時に、ルーの胸を貫いた手刀もズルリと抜き去っていく。
2人は膝を付いて、その場に崩れ。
オレは堪らず、ルーファスの元へと駆け寄った。
「チッ…時間切れか…」
舌打ちするジークリッドが辺りをちらりと見渡して。すると彼が作り出した異空間は、硝子が砕けるように崩壊し始める。
ルーに貫かれた脇腹も、相当な深手なのか…
押さえる手をも赤く染め、ボタボタと床を汚していた。
「神子、必ず俺のモノにしてやる…」
自信に満ちていたジークリッドは、最後に悔しさを滲ませ、血反吐と共にそう吐き捨てると…
闇に溶け込むよう一瞬で姿を消してしまい。
何事もなかったみたく、室内は不気味に静まり返る。
けど今のオレは、他のことになんて構ってはいられなかった。
「るうッ…る、うッ…!!」
「…せ…つ……」
オレの声に反応するルーは、噎せるよう口から血を滴らせる。
自身で押さえる胸元は真っ赤に染まり…
オレは震えながら、その手に自分の手を重ねた。
「治癒をっ…」
オレがなんとかしなきゃ…
こうしてる間にも、貫かれた箇所からは鮮血が溢れ出し…あっという間に、絨毯を飲み込んでいく。
ティコを救った神子の力なら、きっと…
自分の役割を思い出し、ルーの傷口に重ねた手へ魔力を溜めようとするのだけれど。
思考はグチャグチャ、涙と嗚咽が邪魔をして。
焦れば焦るほどに…
力は発現してはくれなかった。
「早くッ…な、治さ……きゃっ…」
泣きじゃくりながら、必死で祈る。
どうか、どうか、ルーの傷を─────
早くしなきゃ、ルーの血がどんどん溢れて、
一刻も猶予は無いのにっ…
急くオレは、こんな時に限って役立たずで。
時間だけが、無情に過ぎていく。
…なんで、神子なのにっ…
「神子なのにッ…なんで、だよッ…!」
叫んでも、声は空回り。
生気を失っていくルーの目が、虚ろにオレを捉えてきて。
じっとオレを見つめ、ふわりと微笑む。
「せ、つ…」
「待っててッ…すぐ、治すからぁ…ッ…」
両手をかざし、切実に願う。
けどオレの手は魔力どころか、何も生み出してはくれず…。ルーはその手を、紅く濡れるそれで握り締めてきて…
込み上げるものを噛み殺し、ルーの顔を見返せば。彼は弱々しく、何かを否定しようとしていた。
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