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「るっ…ルーッ…!!!」 ジークリッドが自身に刺さる剣の刃を掴み、引き抜くと…同時に、ルーの胸を貫いた手刀もズルリと抜き去っていく。 2人は膝を付いて、その場に崩れ。 オレは堪らず、ルーファスの元へと駆け寄った。 「チッ…時間切れか…」 舌打ちするジークリッドが辺りをちらりと見渡して。すると彼が作り出した異空間は、硝子が砕けるように崩壊し始める。 ルーに貫かれた脇腹も、相当な深手なのか… 押さえる手をも赤く染め、ボタボタと床を汚していた。 「神子、必ず俺のモノにしてやる…」 自信に満ちていたジークリッドは、最後に悔しさを滲ませ、血反吐と共にそう吐き捨てると… 闇に溶け込むよう一瞬で姿を消してしまい。 何事もなかったみたく、室内は不気味に静まり返る。 けど今のオレは、他のことになんて構ってはいられなかった。 「るうッ…る、うッ…!!」 「…せ…つ……」 オレの声に反応するルーは、噎せるよう口から血を滴らせる。 自身で押さえる胸元は真っ赤に染まり… オレは震えながら、その手に自分の手を重ねた。 「治癒をっ…」 オレがなんとかしなきゃ… こうしてる間にも、貫かれた箇所からは鮮血が溢れ出し…あっという間に、絨毯を飲み込んでいく。 ティコを救った神子の力なら、きっと… 自分の役割を思い出し、ルーの傷口に重ねた手へ魔力を溜めようとするのだけれど。 思考はグチャグチャ、涙と嗚咽が邪魔をして。 焦れば焦るほどに… 力は発現してはくれなかった。 「早くッ…な、治さ……きゃっ…」 泣きじゃくりながら、必死で祈る。 どうか、どうか、ルーの傷を───── 早くしなきゃ、ルーの血がどんどん溢れて、 一刻も猶予は無いのにっ… 急くオレは、こんな時に限って役立たずで。 時間だけが、無情に過ぎていく。 …なんで、神子なのにっ… 「神子なのにッ…なんで、だよッ…!」 叫んでも、声は空回り。 生気を失っていくルーの目が、虚ろにオレを捉えてきて。 じっとオレを見つめ、ふわりと微笑む。 「せ、つ…」 「待っててッ…すぐ、治すからぁ…ッ…」 両手をかざし、切実に願う。 けどオレの手は魔力どころか、何も生み出してはくれず…。ルーはその手を、紅く濡れるそれで握り締めてきて… 込み上げるものを噛み殺し、ルーの顔を見返せば。彼は弱々しく、何かを否定しようとしていた。

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