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「セツ…」 「これは、一体…」 背中から、みんなの声がしたけれど。 オレの心は打ち拉がれ… 虚ろにただ、腕の中の愛しい人に縋り付く。 「約束したのに…ど…して…」 誓いのキスなんてしなけりゃ良かった。 ついつい自分を甘やかして… こんなんじゃ、好きだなんて言わなくても。 もう、手遅れだったじゃないかっ… 「ダメだ、よっ…ルーじゃなきゃ…ルーが守ってくれなきゃ、オレっ…」 弱いから、ひとりじゃ生きていけないよ…? ルーがいなきゃ、此処にいる意味も。 世界を守る理由だって。 何も、無いんだから… 「こんなの、認めないからっ…なッ…」 例えゲームの世界だろうが、 選択肢通りに結末が定められていようが… そんなものに。 振り回されて、たまるもんか─────… 「オレだって、ずっと言いたかったんだ…」 なのに言い逃げなんて、ずるいよ… どんなに叫んでも、ルーにこの声は届かない。 「セツ…」 そんなオレの姿を、みんなはただただ黙って見守る。 「オレだってっ…お前と一緒、でッ…」 あのゲームで知り、 この世界で出逢った時から、心奪われて。 気付いたら、いつもお前のことを目で追っていた。 初めは男だからだとか、 色々な感情が邪魔をして… 自覚すら、してなかったけどさ… 今なら解るよ?だって… 「ずっとずっと、お前のことが好きだったんだよッ…!!」 だから、お願いだ。 オレはルーを抱き、心の底から、想う。 そうだ、オレは神子なのだから。 (信じるよ…) 知識も無い、(すべ)も知らない。 けどそんなことには囚われず、ひとつの想いだけを胸に… 願う。 この命が救えないのなら、 オレは神子である資格なんて無いだろう。 たったひとつ、 大切な者すら救えなくて。 その程度の存在が、世界を救おうだなんて… (だから、傍にいてよ…ルー…) じゃなきゃオレ、世界なんて救えないし。 独りきりで生きてくなんて、もう出来ないよ? オレは甘ちゃんだからさ… お前がちゃんと、隣でみててくれなきゃ。 ルーがいなくなってしまったら、 オレの居場所なんて… 何処にも無いじゃないか… だから。 「…すご、い……」 誰かがぽつりと呟く。 目を閉じていても、分かる。 オレの願う通り、想いは力となり… この手に、宿る。 あたたかいそれは、オレとルーを優しく包み込み。 それでもまだ足りないから。 ひたすらに。 心の中で、ルーのことだけを想った。 大丈夫、奇跡はこうして… 生まれるんだから。 『セツ…!!』 一気に膨れ上がる光が。 オレとルーを覆い尽くし、目映さにみんなが叫ぶ。 オレの身体から織り成す光は、帯状に伸びるとルーの身体を突き抜けて。絡まりながら、柱を成して急上昇していき… 宙へと霧散していった。 「セツ……平気、か…?」 「うん…」 オレがゆっくり振り返ると、ジーナが心配そうな顔で声を掛けてきて。 ロロやアシュ、ヴィンも… 悲痛な面持ちで、こちらへと近付く。 「セツっ…ルー、は…」 泣きながらロロが、恐る恐る問い掛けて。 オレは一度、腕の中のルーを振り返り…答える。 「大丈夫…たぶん、眠ってるだけ…だから。」 確証は無いけれど… そう付け加え、オレはルーに視線を戻す。 先程まで熱を失っていた身体は、ほんのりと温かく…頬にも赤みが差し、生気が宿ってる。 ヴィンが傷口を確認すると、貫かれたはずのそこは生々しい傷跡を残しはするものの…ちゃんと塞がっているみたいで。 オレは安堵の涙をぽたりと一粒、その大好きな人の頬に滴らせていた。 「良かったね…セツっ…」 「うん……うんっ…」 ロロの言葉に、感情が一気に溢れ出て。 オレは噛み締めるよう…ルーをぎゅっと抱き締める。 その胸に擦り寄り、僅かに伝わる…けれど確かに脈打つ、ルーの鼓動を愛おしいと感じながら。 オレはその幸福を迎えられたことに。 心の底から、感謝した。

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