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「今すぐ神子を捕って食ったりはしねぇよ。」 戦いに来たわけではないと断言するラルゴは、じっとオレを見つめてきて。 なんとなくだけど…今までの彼の行動を考えたら。 嘘は言ってないように思える。 「…ならば何をしに来たというのだ…?」 「話し合い…いや、むしろかな…」 ルーの質問に即答するラルゴは、含みのある笑いを浮かべ。一同警戒しつつも、目を見合せ疑心暗鬼する。 「…だから、と?」 冷静な声音のヴィンに、ラルゴは肯定を示し。 彼の目的が、なんとなくだが見えてきたから。 「とりあえず…話を聞こう、みんな。」 「セツ…」 視線だけで振り返るルーに。 オレは大丈夫だと頷き、一歩前へと進み出た。 「…少しでも不穏な動きをすれば、容赦はしない。」 オレが警戒を解く中、それでもみんなは武器に手を掛けたままで。ルーはラルゴに向け、警告を発す。 「ああ、構わねぇよ。さっきも言ったが…今の俺は、お前らから逃げ切ることすら厳しいからな。」 すんなり受け入れるラルゴは、言わなくてもいいことまで口を滑らせる。 「いくら壊れかけでも、魔族が結界の真っ只中に入るのは容易じゃねぇんだ。」 入ってくるために、仲間の魔法で結界の隙間から侵入したラルゴは。言われてみれば、いつもより覇気がないというか、少し疲れてるみたいに溜め息を吐く。 「ジークみたいな化物とは違うからな。アイツなら結界の中でも、ある程度は動けるだろうがよ…」 敵意がないのは解ったけど。 やはりラルゴ達の意図までは把握出来ず。 寧ろ自分達の王のことまで、普通に話してくるもんだから。どうなんだろう…罠の可能性も、無くはないけど… 「まあ、(にわか)には信じがたいだろうが。はムーバの野郎とは違うからな。」 そこだけは強調してくるラルゴは。 自らムーバの名前を口にしておきながら、不快感を露にする。 ムーバは魔王に取り入ってたって、前にルーと話していたし。オレ達のような純粋な仲間…という関係では、ないのかもしれない。 ジークリッドの事とか、色々と複雑な部分もあるけど…このラルゴだけは、魔族の悪いイメージとは違うっていうか。ムーバに向ける不信感はきっと、この男の本心なんじゃないかなって…オレは思うんだ。 敵には変わりないし、かなり好戦的だけどね。 外見や口調は荒々しいけど、男気があって何処か憎めないというかさ…。 こうして改めて省みてみると。 魔族も人間と同じようなもので…魔族の全てが一括りに『絶対悪』とは、限らないんじゃないだろうか?

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