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⑬
「じゃあ、いくよ…」
ルーをベッドの端に座らせ、オレはその前に立ち傷痕に向け手を当てる。
呪文なんて必要ないから、オレは目を閉じ…ただ集中するのみ。
(最初は魔法を使うって感覚が、いまいち解らなかったけど…)
ルーを蘇らせてから、なんとなく理解出来た気がする。
所詮オレは、魔法と無縁な世界から来た異界の住人で。難しいことは解らないし、きっと正解なんて誰も知らないのだろうけど…
(けど、オレは知ってる…)
守りたいもの、癒したい者のため…祈る。
強く強く、想いを込めて。
たったそれだけで…応えはちゃんと導き出せるから。
「どう…?」
ふう…と一呼吸置いてから、目を開く。
今までずっとオレを見上げていたっぽいルーは、笑顔で答えて。
「ん…随分と身体が楽になったな…」
自身の体を省みて、静かに感嘆を表した。
胸元に残った傷痕も、心なしか薄まった気がする。
「そっか、良かっ、たぁ…」
くしゃりと笑みを溢した瞬間、目眩がして。
ふらついてしまうオレを、咄嗟にルーが抱き寄せ受け止める。
「大丈夫か…?」
「うん、へーき。ちょっと目眩がしただけだよ?」
笑って誤魔化しても、ルーはすぐに察して溜め息を溢し。
「やはりまだ、魔力が戻りきっていないのだろう?」
「えっと…」
元々はティコを救った時からだけど。
無理に神子の力を使ってしまった反動で、本来のようには魔法が使えなくなってて。
それからも、魔族の双子にやられた時とか…それこそルーを生き返らせるために。蘇生魔法だとか、無意識に実力以上の魔法を酷使してしまったのが要因で。
自分でも…魔力が不安定なんだってのは、なんとなく感じてはいた。
そもそもオレの場合は、みんなが使ってる魔法とは根本から違うみたいだから。その魔力量や、身体への負担は段違いだろうって…ヴィンが話してたんだけど。
それに…
「魘 されて、良く…眠れていないのだろう?」
「…やっぱり気付いてたんだ…」
ああ…と頷くルーは、オレの身体を少しだけ強く抱き締める。
特にルーが貫かれた時の光景は、今でも目に焼き付いていて。
ティコの事や…魔族やグリモアに襲われた時のことも然り。それらは悪夢となってオレを蝕み、まともに眠れぬ夜を過ごすことも度々あったんだけれど。
もしかしたら、そのことにも気付いてるのかもなぁ。なんとなく、オレを抱き締める手が震えてるような気がするし…。
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