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「…怪我の具合が良くないと、聞いていたが…」 「いえ…この通り、ご心配には及びません…」 一瞬面食らうオリバーさんは、努めて平静に。 ルーへと声を掛けるものの… 対するルーも、一見すると同様に。 返答しているようには見えて…何処となく、その表情は硬い。 「そうか…ならば安心した。」 ルーの態度には敢えて触れず、微笑むオリバーさんは。ちらりとオレに視線を送るも、オレは未だにルーの腕の中であり…。 そこでようやく我に返るオレは、慌ててルーの腕をすり抜け振り返った。 「お前っ、なんでここに…」 寝てなきゃダメだって散々言ったのに… そう咎めるように詰め寄っても、 「…私はセツの、守護騎士だから。」 傍を離れたくない…だとか、最もらしい言い訳まで用意してシラを切るルー。 明らか職権乱用でしょソレ… 独り置いてきぼりを食らったのを根に持ってるのか、子どもみたいに目を逸らすルーに。 不覚にも、無いはずの母性本能を擽られそうになったが… 「オレはお前が心配なんだから、あんまり無茶するなよ…」 「……すまない…」 約束破ったんだから、叱らなきゃなんだけど。 しょーがないなぁと優しく注意すれば、意外にも素直に謝られてしまい。思わず苦笑が漏れる。 「ふ…守護騎士としての姿勢には、称賛するが…あまり無理をして、セツ殿を困らせるんじゃないぞ、ルーファス。」 「はい、ご忠告痛み入ります…」 言葉を交わすふたりの間には、微妙な空気が流れていて。なんだか触れてはいけない…隔たりのようなものを感じる。 …なんだろう? 仲が悪いとかじゃなかったはずだけど。何かあったんだろうか…? 「…ではセツ殿、私はこれで。お引き留めしてしまい、申し訳ありませんでした。」 「あ、いえ…」 「魔王城跡での詳細が決まりましたら、また…」 最後にオレへと向き直るオリバーさんは、胸に手を当て一礼をすると…。颯爽と、この場を後にした。 「………こら。」 「む……」 そんな彼の背中を、複雑な表情で見送るルーファスの腕を。オレが軽く小突いてやれば、バツが悪そうに見下ろしてきて。オレはわざとらしく溜め息を漏らす。 「たく…あれだけ忠告したのに~…」 意地悪く唇を尖らせると、ルーはまた目を泳がせてしまい。 「こうなるのではと……セツは目を離すと、すぐ自覚無しに人を惑わすから…」 「え?」 独り言のようにボソボソと答えたルーに、聞こえないと聞き返すも… 「いや……すまなかった…」 なんでもないと流し、改めて謝罪を口にして。 「私が、お前の傍にいたかったから…ただの我が儘だ。」 今度ははっきりと直球で。 寂しかっただなんて言われちゃえば、許さないわけにもいかない…ので。 「こ、今回だけだぞ?次はないんだからな…?」 照れ臭さを誤魔化し、ぶっきらぼうに物言えば。 「心得た…。」 「あっ…こら、いきなり抱き付くなってば…」 途端に大型犬みたく擦り寄ってくるもんだから。 行き交う人の目に晒され、オレの心拍数と体温は軒並み急上昇する羽目になるのだった。 「セツ~、オリバー団長と浮気すっからルー寂しがってんじゃん~?」 「なっ…!?なんでそうなんの…」 しばらくすると、傍目から様子を伺っていた3人が戻ってきて。ジーナがニヤニヤとからかってくる。 「さすがだねぇ、僕らの神子様は。本当に罪深いんだから。」 「オリバー団長だけとかズルイ~!ボクとも浮気してよぉ、セツ~!」 人目も憚らず、誤解されそうな台詞をみんなして連発してくるもんだから… こちらに終始向けられていた、異常なまでの熱視線に。オレは…全く以て気付くことはなかった。 「尊いですわ、セツ殿…はぁ~…眼福…この国はもう安泰ですわね~…」 「一国の女王が出歯亀とは…品位を疑われてしまいますよ、陛下。」 この国の頂点に君臨する者が… 会議室の扉の隙間から、ずっと乱心し身悶えていたこと。 そしてその女王に、冷静で辛口なツッコミを。 ズケズケと入れまくる、ヴィンの存在にも…

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