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⑤
「…怪我の具合が良くないと、聞いていたが…」
「いえ…この通り、ご心配には及びません…」
一瞬面食らうオリバーさんは、努めて平静に。
ルーへと声を掛けるものの…
対するルーも、一見すると同様に。
返答しているようには見えて…何処となく、その表情は硬い。
「そうか…ならば安心した。」
ルーの態度には敢えて触れず、微笑むオリバーさんは。ちらりとオレに視線を送るも、オレは未だにルーの腕の中であり…。
そこでようやく我に返るオレは、慌ててルーの腕をすり抜け振り返った。
「お前っ、なんでここに…」
寝てなきゃダメだって散々言ったのに…
そう咎めるように詰め寄っても、
「…私はセツの、守護騎士だから。」
傍を離れたくない…だとか、最もらしい言い訳まで用意してシラを切るルー。
明らか職権乱用でしょソレ…
独り置いてきぼりを食らったのを根に持ってるのか、子どもみたいに目を逸らすルーに。
不覚にも、無いはずの母性本能を擽られそうになったが…
「オレはお前が心配なんだから、あんまり無茶するなよ…」
「……すまない…」
約束破ったんだから、叱らなきゃなんだけど。
しょーがないなぁと優しく注意すれば、意外にも素直に謝られてしまい。思わず苦笑が漏れる。
「ふ…守護騎士としての姿勢には、称賛するが…あまり無理をして、セツ殿を困らせるんじゃないぞ、ルーファス。」
「はい、ご忠告痛み入ります…」
言葉を交わすふたりの間には、微妙な空気が流れていて。なんだか触れてはいけない…隔たりのようなものを感じる。
…なんだろう?
仲が悪いとかじゃなかったはずだけど。何かあったんだろうか…?
「…ではセツ殿、私はこれで。お引き留めしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「あ、いえ…」
「魔王城跡での詳細が決まりましたら、また…」
最後にオレへと向き直るオリバーさんは、胸に手を当て一礼をすると…。颯爽と、この場を後にした。
「………こら。」
「む……」
そんな彼の背中を、複雑な表情で見送るルーファスの腕を。オレが軽く小突いてやれば、バツが悪そうに見下ろしてきて。オレはわざとらしく溜め息を漏らす。
「たく…あれだけ忠告したのに~…」
意地悪く唇を尖らせると、ルーはまた目を泳がせてしまい。
「こうなるのではと……セツは目を離すと、すぐ自覚無しに人を惑わすから…」
「え?」
独り言のようにボソボソと答えたルーに、聞こえないと聞き返すも…
「いや……すまなかった…」
なんでもないと流し、改めて謝罪を口にして。
「私が、お前の傍にいたかったから…ただの我が儘だ。」
今度ははっきりと直球で。
寂しかっただなんて言われちゃえば、許さないわけにもいかない…ので。
「こ、今回だけだぞ?次はないんだからな…?」
照れ臭さを誤魔化し、ぶっきらぼうに物言えば。
「心得た…。」
「あっ…こら、いきなり抱き付くなってば…」
途端に大型犬みたく擦り寄ってくるもんだから。
行き交う人の目に晒され、オレの心拍数と体温は軒並み急上昇する羽目になるのだった。
「セツ~、オリバー団長と浮気すっからルー寂しがってんじゃん~?」
「なっ…!?なんでそうなんの…」
しばらくすると、傍目から様子を伺っていた3人が戻ってきて。ジーナがニヤニヤとからかってくる。
「さすがだねぇ、僕らの神子様は。本当に罪深いんだから。」
「オリバー団長だけとかズルイ~!ボクとも浮気してよぉ、セツ~!」
人目も憚らず、誤解されそうな台詞をみんなして連発してくるもんだから…
こちらに終始向けられていた、異常なまでの熱視線に。オレは…全く以て気付くことはなかった。
「尊いですわ、セツ殿…はぁ~…眼福…この国はもう安泰ですわね~…」
「一国の女王が出歯亀とは…品位を疑われてしまいますよ、陛下。」
この国の頂点に君臨する者が…
会議室の扉の隙間から、ずっと乱心し身悶えていたこと。
そしてその女王に、冷静で辛口なツッコミを。
ズケズケと入れまくる、ヴィンの存在にも…
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