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「では…これより、神子セツによる結界再構の儀を執り行う。」 トリント様が高らかに宣言すると、オリバーさん達特級騎士達が一斉に跪き。 錫杖のような物を手にしたアリシア様とオレは、女神像が見下ろす祭壇前で向かい合う。 「女神フェレスのもと、主を敬愛し祷りを捧げよ。」 アリシア様が杖を鳴らし、全員が瞑目する。 しんと静まる堂内には香が漂い、鈴のような音が規則的に流れる中…トリント様が淡々と聖典を詠った。 それらが聞こえなくなると、またアリシア様の一声で以て皆は目を開く。 「神子セツよ、跪きなさい。」 女王の顔付きで告げるアリシア様に従い、オレは向かい合ったままフェレス像の前で両膝を突き(こうべ)を垂れる。 するとアリシア様はオレの額辺りに手を(かざ)して。 徐に、呪文のようなものを囁き始めた。 その手から、緩やかな魔力の流れを感じる。 「世界を救いし異界の神子に、ささやかなる祝福を…」 因みに、これはおまじないというか…儀式が無事成功するようにという、一種の願掛けのようなものなのだそう。 そうして魔力が途切れたところで見上げると、アリシア様も膝を突き、 「神の寵愛を賜いし神子よ。我がフェレスティナに、その恩恵をどうかお与え下さい。」 こくりと頷くアリシア様にオレも無言で応えると。彼女は静かに祭壇から離れ…壇上にはオレだけが残される。 (……よし…) 皆の期待と視線を一身に背負い、胸の鼓動が高まるが…。 心静めようと、オレは右手の指輪へと視線を落として。 縋る思いでそっと口付けると…祷りを捧げるため手を組み、ゆっくりと目を閉じた。 (大丈夫…) 神子が力を発動させる(すべ)に、たぶん正解なんて存在しない。 だからオレは、歴代の神子がきっとそうしてきたように。思い思いの方法で以て、奇跡を呼び起こす。 (オレは、願うだけ…) 大切な場所、大切な仲間… それから愛する人の笑顔を。 ただ守りたくて。それだけを強く願う。 この国に施された先代神子の結界は。 何故か不安定だったために、ルーがあんなことになってしまった。 だから二度と、大切な人が奪われないように。 (お願い…) オレが真の神子だというなら、 どうか神様…守るための力を貸して下さい───… 『おお……』 参列者が皆、言葉にならない感嘆を漏らす。 オレが祷りを捧げれば。 女神様はきっと応えて、奇跡の片鱗を分け与えてくれるから。 目を閉じていても、解る。 身体は温かな光に包まれ…瞼越しでも透けて見えるほどに目映い力が溢れ出し、広がる。 そうしてオレを中心に、光の柱は一瞬で膨れ上がり…フェレスティナに再度、女神の加護を授けるのだ。

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