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「結界も修復されましたから、魔物の心配はなさそうですが…セツの体力では厳しいでしょうね。」 「うん、でもなぁ…」 ヴィンの言葉に頷きながらも、オレは言葉を濁して。ルーからは視線だけで問い掛けられる。 「どうせなら、すぐにでもティコ達に知らせてあげたかったなぁって…」 グリモアの事件以降、魔族に狙われる危険性を考慮して。孤児院のみんなは一時的に城下にある神殿施設で預かって貰えるよう、オリバーさんが手配してくれたんだよね。 ティコは神淵の森でのこと、自分が邪魔をしちゃったんじゃないかって、スゴく気にしてたから…。 このことを教えてあげれば、少しは気が楽になると思ったから。でも、 「休憩してたら、夜になっちゃうよね…」 なら今日中には無理かなって、ちょっとガッカリしていたら。 「…ならば、今すぐにでも出発しよう。」 「えっ…でも、」 ルーがきっぱり告げるけど、オレは正直動けないわけで…。困惑していると、 「わわっ…」 いつぞやのように、ルーはオレをいきなり抱き上げ立ち上がり。 「こうすれば問題ない。」 「ちょっ…ええ…!?」 そう言って、スタスタと来た道に向かって歩き出す。オレがオロオロしていても、みんなは大して驚くことは無く、 「あ~、そんなら楽勝だな!」 寧ろ当然とばかりに、ジーナはオレ達の前に抜き出て、先導し始めるから。他のみんなもすぐ把握し、手早く荷を片付け続いた。 「いやいやいや、ちょっと待ってよっ…」 いくらなんでも無理だよね? お…お姫様抱っこって言うほど簡単じゃないし。 オレが痩せてる方だとしても、普通に重たいだろうから?森の中は歩くことすらスッゴく大変で、魔物だってまだ完全にいなくなったわけじゃあないんだからさ…。 しかしオレの常識は、彼らには通用しないようで… 「平気だよ~。セツくらいなら、抱っこしたまま全力疾走だって出来るよ~!」 騎士の能力を侮る勿れ。 ロロが言う通り…ルーはこの後、森の入口まで当たり前のように、オレをお姫様抱っこし続けることになるのだが… 騎士は常日頃から、それこそオレより遥かに重たい武器や荷物を運びながら、過酷な場所へと任務に赴いているそうなので。 なんならそのまま、魔物とだって戦ったりするらしい。 「疲れたら、僕がいつでも交代するよ~?」 アシュがニヤニヤしながら、ルーに向け申し出るけれど。 ルーは大丈夫だと言って、最後まで誰にも譲ることは無く。更に帰りは、行きの半分の時間も掛からなかったのだから…笑うしかないよね。 幾ら帰りの方が、魔物と遭遇しなかったとは云えど。騎士様ってホントどんだけハイスペックなんだろ…。 何よりまず、みんなの前でルーにお姫様抱っこされ続けるという羞恥プレイが耐えられなかったし…。 半ばヤケクソでルーの首にしがみついて、顔隠してたらさ。コイツってば、メチャクチャ上機嫌になるもんだから。 ジーナ達は、日頃から慣れてるから平気なんだが。オリバーさんとか…騎士団の皆さん方の視線だけは、どうにも居たたまれなくて。 帰り道、体力的には休まれど…心休まることは叶わなかった。

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