266 / 423
⑦
「そうだ…ぼくね、セツに助けてもらってから魔法が使えるようになったんだよ!」
「え…?そうなの?」
ティコの話では、瀕死からオレの治癒魔法で命を繋ぎ止めたおかげか、魔法の才能が開花したそうで…。元々の素養はあったらしいけど、そのことをきっかけにして、急激に魔力量が上がったんだそうな。
それもここに来てから、神官達が気付いて教えてくれたことらしい。
「だからね、ぼく魔法も剣術もいっぱい練習してねっ。いつか必ず、騎士になるから…」
子どもの拙い言葉で、一生懸命話すティコは。
顔を真っ赤に染めながら、必死に何かを伝えようとするけれど…
「ぼくも強くなったらセツのこと守るから…そしたらね、セツのこと────」
そこまで一気にまくし立てるティコだったが…
何かに気付き、ピタリと動きを止めてしまい。
オレは首を傾げるものの…
「ティコ…?」
「セツの、それっ…」
急にぎこちなくなるティコの視線が向かう先には、オレの右手があって。
そこではた、と気付かされる。
「あっ…」
オレが何か言うより早く、ティコの口から察したような声が漏れて。その視線が、次には別の方へと移される。
それは、少し離れた場所で少女達に囲まれるルーファスの姿であり…。
ティコはまた俯き…暫し物思いに耽った後、ゆっくりと口を開いた。
「セツは、ルー様のことがっ…」
好きなの?……まっすぐで簡素な言葉で。
問うティコはちらりと指輪を示し、またじっとオレを見上げてくる。
「………」
オレも指輪と…ルーを見やってから、ティコを見据えて。動揺しながらも、透き通った瞳がオレをまっすぐ映していたから。
「うん、好きだよ…」
指輪に想いを馳せながら、正直な気持ちを打ち明ければ。ティコは更に深く俯いてしまうけれど…
「ぼく、セツに助けてもらって…いつか恩返ししたかったんだ…。」
だから騎士になって、ルーにも負けないくらい強くなって。そしたら、
「セツに好きだよって…ぼくのお嫁さんになってって、言おうって…」
オレに弱気な姿を見せないように、唇を噛んで涙を堪えるティコが真っ赤な顔で告げるから。
胸がぎゅっと締め付けられ、オレまで泣きそうになる。
「ティコっ…」
堪らずオレにしがみついてくる少年の小さな身体を、躊躇いながら抱き締める。
どう応えたらいいのか判らず、黙ったままあやすよう背中を擦っていたら…。
「…ルー様ならっ、きっとセツを幸せにしてくれるよ…」
耳元で囁くティコ紡いだのは、十にも満たない子どもとは思えないくらい…大人びた台詞で。
じんわりとオレの心へと響かせ、思わず目頭を熱くさせられる。
「うん…ありがとう。」
大好きだよって、つい言いそうになるけど…。
小さな騎士の卵が、勇気を振り絞り告白してくれたんだから。
それだけは飲み込み…言葉の代わりに、その身体を強く強く抱き締めた。
ともだちにシェアしよう!