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「そうだ…ぼくね、セツに助けてもらってから魔法が使えるようになったんだよ!」 「え…?そうなの?」 ティコの話では、瀕死からオレの治癒魔法で命を繋ぎ止めたおかげか、魔法の才能が開花したそうで…。元々の素養はあったらしいけど、そのことをきっかけにして、急激に魔力量が上がったんだそうな。 それもここに来てから、神官達が気付いて教えてくれたことらしい。 「だからね、ぼく魔法も剣術もいっぱい練習してねっ。いつか必ず、騎士になるから…」 子どもの拙い言葉で、一生懸命話すティコは。 顔を真っ赤に染めながら、必死に何かを伝えようとするけれど… 「ぼくも強くなったらセツのこと守るから…そしたらね、セツのこと────」 そこまで一気にまくし立てるティコだったが… 何かに気付き、ピタリと動きを止めてしまい。 オレは首を傾げるものの… 「ティコ…?」 「セツの、それっ…」 急にぎこちなくなるティコの視線が向かう先には、オレの右手があって。 そこではた、と気付かされる。 「あっ…」 オレが何か言うより早く、ティコの口から察したような声が漏れて。その視線が、次には別の方へと移される。 それは、少し離れた場所で少女達に囲まれるルーファスの姿であり…。 ティコはまた俯き…暫し物思いに耽った後、ゆっくりと口を開いた。 「セツは、ルー様のことがっ…」 好きなの?……まっすぐで簡素な言葉で。 問うティコはちらりと指輪を示し、またじっとオレを見上げてくる。 「………」 オレも指輪と…ルーを見やってから、ティコを見据えて。動揺しながらも、透き通った瞳がオレをまっすぐ映していたから。 「うん、好きだよ…」 指輪に想いを馳せながら、正直な気持ちを打ち明ければ。ティコは更に深く俯いてしまうけれど… 「ぼく、セツに助けてもらって…いつか恩返ししたかったんだ…。」 だから騎士になって、ルーにも負けないくらい強くなって。そしたら、 「セツに好きだよって…ぼくのお嫁さんになってって、言おうって…」 オレに弱気な姿を見せないように、唇を噛んで涙を堪えるティコが真っ赤な顔で告げるから。 胸がぎゅっと締め付けられ、オレまで泣きそうになる。 「ティコっ…」 堪らずオレにしがみついてくる少年の小さな身体を、躊躇いながら抱き締める。 どう応えたらいいのか判らず、黙ったままあやすよう背中を擦っていたら…。 「…ルー様ならっ、きっとセツを幸せにしてくれるよ…」 耳元で囁くティコ紡いだのは、十にも満たない子どもとは思えないくらい…大人びた台詞で。 じんわりとオレの心へと響かせ、思わず目頭を熱くさせられる。 「うん…ありがとう。」 大好きだよって、つい言いそうになるけど…。 小さな騎士の卵が、勇気を振り絞り告白してくれたんだから。 それだけは飲み込み…言葉の代わりに、その身体を強く強く抱き締めた。

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