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⑧
「セツは魔王を、倒しに行くんだよね…?」
別れ際、ティコが真剣な眼差しで聞いてきて。
オレはうんと応える。
「ルー様も…?」
「ああ…私はセツの守護騎士だからな。」
じっと見つめるティコの頭にぽんと手を乗せるルー。
「ぼくも強ければ、一緒にセツを守れるのにな…」
こんなに小さいのに。ティコは悔しげに俯いて。
そんな少年に対し、ルーは膝間付くと…両肩へ優しく手を添える。
「お前の気持ちは、痛いほど良く解るが…今は私に任せてくれないか?」
必ずセツを護るから…と。
ルーも真剣に少年と向き合う。
「魔王って強いんだよね?ルー様も一回やられちゃったって…」
危険なんでしょ?…そう不安げに問うティコ。
ルーは強く答える。
「次は必ず、勝利してみせると約束しよう。」
ふたりは暫く無言で見つめ合っていたが…
「わかったよ…セツのこと、今はルー様にゆずってあげる。その代わり…絶対に守ってね?」
「ああ、絶対だ。」
まるで男の友情とでもいうように、拳を付き合わせて。次には互いに歯を見せ笑っていた。
「セツ、ぼく騎士になって絶対ルー様より強くなるから!そしたらねっ…」
その時もう一度、お嫁さんになってってプロポーズするから────
堂々と…最強を誇る守護騎士に向け、ライバル宣言するティコ。
こんな可愛いのに、なんて男らしいのかと…健気な姿に思わずハートを射ぬかれてしまうオレは。
「ふふ…じゃあ楽しみにしてるからね?」
「みててよ、ルー様よりカッコ良くなってセツに好きって言わせちゃうから!」
バイバイって、ティコは真っ赤な顔で嵐のように走り去って行く。なんだか去り方まで男前だな~とか、微笑ましく見送っていたら。
「プロポーズを、待っているのか…?」
「…なんでそうなんの?」
ルーが的外れなことを言い出したので、思わず吹き出してしまったけど。
「もぉ~…お前はそうやってすぐ、誰にでもヤキモチ妬くんだから…」
「……すまない。」
こんな非の打ち所の無い男前で、強くて完璧なクセに。意外と子どもっぽくて、嫉妬深いとか…
それはそれで可愛いとこもあるんだなぁ、とか。
「そんなヤキモチ妬かなくてもさ…」
(オレが好きなのは、お前だけだよ…?)
こっそりと、耳打ちしてあげたら。
「っ…!」
「ほらっ、早く帰ろう!ヴィンとアシュに気を遣わせちゃったしさ。」
面と向かってだと恥ずかしいから、言い逃げしちゃうけども。
いつもルーには甘やかしてもらってるから…たまにはオレからも、飴をあげなきゃだよね?
ルーのが年上だし、遠慮してる部分もありそうだからさ~……と、思ったんだが。
「あっ…こら、」
「私も好きだ…」
コイツは思ったことを、すぐ行動に反映させる性格なので。よほど嬉しかったのか、後ろから遠慮無しに抱き付いてくるから。
「あ~!またルーがセツのこと独り占めしてる~!」
「たく…もう少し人目とか気にしろよなぁ。」
案の定ロロとジーナにツッコミを食らわされる始末。当の本人は全く気にしてないし…
こんなとこ、ティコに見られたらどうすんだよ~もう…。
「ジーナの言う通りだぞっ…」
さすがに恥ずかしいので、べりっと引き剥がしたら不満げな顔をされて。
オレが見上げてるはずなのに、なんだか立場が逆転してるみたいだ。
「…人がいなければ良いのか?」
誰に言うでもなく、ぼそりと溢すルーの呟きが聞こえてしまったので…。仕方なくオレはもう一度、
「…いいよ。」
ふたりきりなら、好きなだけ。
甘やかしてあげたら、ルーは嬉しそうに笑い。
「早く帰ろう。」
そう告げ、オレの手を引き促した。
「ふはっ…」
「ん?」
なんだか大きな犬に懐かれてる気分だなぁ、とは言えないけれど。ちゃんと気持ちが通じ合えてるからこそ、解り易くて安心する。
ちょっと前までは、気持ちに気付いても言葉に出せず。苦しんでたのが…ホント嘘みたいだよな…。
なんてことないルーとの遣り取りに、仄かな幸せを噛み締めつつ…。
オレは繋がれた手を、無意識にきゅっと握り返していた。
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