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「セツは魔王を、倒しに行くんだよね…?」 別れ際、ティコが真剣な眼差しで聞いてきて。 オレはうんと応える。 「ルー様も…?」 「ああ…私はセツの守護騎士だからな。」 じっと見つめるティコの頭にぽんと手を乗せるルー。 「ぼくも強ければ、一緒にセツを守れるのにな…」 こんなに小さいのに。ティコは悔しげに俯いて。 そんな少年に対し、ルーは膝間付くと…両肩へ優しく手を添える。 「お前の気持ちは、痛いほど良く解るが…今は私に任せてくれないか?」 必ずセツを護るから…と。 ルーも真剣に少年と向き合う。 「魔王って強いんだよね?ルー様も一回やられちゃったって…」 危険なんでしょ?…そう不安げに問うティコ。 ルーは強く答える。 「次は必ず、勝利してみせると約束しよう。」 ふたりは暫く無言で見つめ合っていたが… 「わかったよ…セツのこと、今はルー様にゆずってあげる。その代わり…絶対に守ってね?」 「ああ、絶対だ。」 まるで男の友情とでもいうように、拳を付き合わせて。次には互いに歯を見せ笑っていた。 「セツ、ぼく騎士になって絶対ルー様より強くなるから!そしたらねっ…」 その時もう一度、お嫁さんになってってプロポーズするから──── 堂々と…最強を誇る守護騎士に向け、ライバル宣言するティコ。 こんな可愛いのに、なんて男らしいのかと…健気な姿に思わずハートを射ぬかれてしまうオレは。 「ふふ…じゃあ楽しみにしてるからね?」 「みててよ、ルー様よりカッコ良くなってセツに好きって言わせちゃうから!」 バイバイって、ティコは真っ赤な顔で嵐のように走り去って行く。なんだか去り方まで男前だな~とか、微笑ましく見送っていたら。 「プロポーズを、待っているのか…?」 「…なんでそうなんの?」 ルーが的外れなことを言い出したので、思わず吹き出してしまったけど。 「もぉ~…お前はそうやってすぐ、誰にでもヤキモチ妬くんだから…」 「……すまない。」 こんな非の打ち所の無い男前で、強くて完璧なクセに。意外と子どもっぽくて、嫉妬深いとか… それはそれで可愛いとこもあるんだなぁ、とか。 「そんなヤキモチ妬かなくてもさ…」 (オレが好きなのは、お前だけだよ…?) こっそりと、耳打ちしてあげたら。 「っ…!」 「ほらっ、早く帰ろう!ヴィンとアシュに気を遣わせちゃったしさ。」 面と向かってだと恥ずかしいから、言い逃げしちゃうけども。 いつもルーには甘やかしてもらってるから…たまにはオレからも、飴をあげなきゃだよね? ルーのが年上だし、遠慮してる部分もありそうだからさ~……と、思ったんだが。 「あっ…こら、」 「私も好きだ…」 コイツは思ったことを、すぐ行動に反映させる性格なので。よほど嬉しかったのか、後ろから遠慮無しに抱き付いてくるから。 「あ~!またルーがセツのこと独り占めしてる~!」 「たく…もう少し人目とか気にしろよなぁ。」 案の定ロロとジーナにツッコミを食らわされる始末。当の本人は全く気にしてないし… こんなとこ、ティコに見られたらどうすんだよ~もう…。 「ジーナの言う通りだぞっ…」 さすがに恥ずかしいので、べりっと引き剥がしたら不満げな顔をされて。 オレが見上げてるはずなのに、なんだか立場が逆転してるみたいだ。 「…人がいなければ良いのか?」 誰に言うでもなく、ぼそりと溢すルーの呟きが聞こえてしまったので…。仕方なくオレはもう一度、 「…いいよ。」 ふたりきりなら、好きなだけ。 甘やかしてあげたら、ルーは嬉しそうに笑い。 「早く帰ろう。」 そう告げ、オレの手を引き促した。 「ふはっ…」 「ん?」 なんだか大きな犬に懐かれてる気分だなぁ、とは言えないけれど。ちゃんと気持ちが通じ合えてるからこそ、解り易くて安心する。 ちょっと前までは、気持ちに気付いても言葉に出せず。苦しんでたのが…ホント嘘みたいだよな…。 なんてことないルーとの遣り取りに、仄かな幸せを噛み締めつつ…。 オレは繋がれた手を、無意識にきゅっと握り返していた。

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