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「あ…あのっ…!」 そしたらもう、身体は勝手に動いていて。 「セ、ツ…」 ルーが驚いたよう目を丸くして。 取り巻く女の子達も、しんとしてオレを注視する。 蚊帳の外にいたはずのオレは、気付けばルーの目の前まで来ており。小悪魔な令嬢が抱き付く腕とは反対の腕を、無意識にぎゅっと掴む。 「るっ、ルーは…そのっ、」 自分でも何を言おうとしてるのかが、解らなくて。 でも… 「ルーはっ、オレの……だからっ…!」 “触らないで───────…” これ以上は耐えられなくて。思わず、本心を口走る。 そうすれば、さっきまで騒いでいた令嬢達もルーファスもみんな、ピシリと固まってしまい…。 その場は一瞬にしてひやりと凍り付いた。 (…しっ、死にたい……) いくらルーが、女の子にベタベタされたからといって。公衆の面前で叫ぶような台詞じゃないだろ~!! ああ…やってしまった、そう後悔して俯くけれど。 やらかしたモンは、もうどうしようもないので… ルーの服を握り締めたまま、途方に暮れるしかない。 こうなったら、ルーの顔を見ることすら怖くなり… 逃げようかなとか、ぐるぐる頭ん中で考えていたら。 「セツ…」 グイと首筋から引き寄せられ、 「るっ…──────んんっ…」 目の前には、ルーの綺麗な顔。 不意打ちに、唇が塞がれる。 しかもそれは、しっかり舌まで絡め… 暫し奪われ続けるものだから… 「はぁ…る、うっ…」 涙でぼやける目で見上げたら。 うっとりとした微笑みで返され… 「すまない、恋人を待たせているので失礼する。」 「え…ちょっ、ルー…」 令嬢達に、はっきりとした口調で告げたかと思えば。オレの手をグイと引いてスタスタと歩き始めるルー。 さっきの小悪魔なコなんて、ものスゴく驚いた顔して立ち尽くしてたけど… 「行こう、セツ。」 「う、うん…」 ルーはそんなことなど、一切お構いも無しに。 その場を後にした。 「ねっ、ルー…待ってって…」 無言で手を引かれ、コンパスの差からオレは息を切らしながら…堪らず声を上げると。 人通りの少ない脇道に連れてこられ、ようやくルーは立ち止まる。 「えと、るっ─────」 もう一度名前を呼ぼうとしたら、遮るよう抱き締められて。不意打ちのそれが、オレの胸をドキリと熱くさせた。 「る、う…?」 「すまなかった…私が曖昧な態度を取ったばかりに…」 泣かせてしまったと、ルーは切なげに告げる。 「べっ、別に…ルーが女の子に強く出れないの、知ってるし…」 気にしてないよと、慌てて言い訳するけど… 「だが、セツは嫌だったのだろう?」 「それはっ…」 …嫌に決まってる。 恋人が他の誰かにベタベタされるのなんか、見たいわけが、ないし。だからって面と向かって言えるほど、自分に自信があるわけでもなく…。 でも結局は、みんなの前であんなみっともなく騒いでしまったものだから…何て答えたらいいのか判らず、言葉に詰まる。 するとルーはオレの両肩にそっと手を添えて… 真顔でじっと見つめてきた。 「セツは、私にどうして欲しい?」 「え…」 オレの心を汲み取るように、まっすぐな眼差しを向けられ。 こんな醜い感情を晒け出すには、抵抗が生じるけれど。オレがルーに思ってたことと同じように、ルーも気遣ってくれようとしてるんだって思うから。 「…お前がモテるのは今更だし、仕方ないことだって解ってるけどっ…」 こんなこと言ったら引かれないかなとか…不安もある。それでも、 「オレの前でっ…女の子に気安く触らせたり、しないで欲しいんだ…」 浅ましい嫉妬だと知りつつ、敢えて正直に我が儘を口にする。 そうしたら、ルーは間もおかずして… 「分かった、お前が嫌なら二度としない。」 躊躇もなく、いとも簡単に受け入れてしまうのだ。 「いいの…?オレすぐヤキモチ妬くし、ルーが思う以上に我が儘だよ?」 なんでもかんでも許してたら、そのうちルーのこと束縛しちゃうかも…って、ちょっと試すようなことを言ってみたり。でも… 「セツにならば、いっそ束縛されてみたいものだな。」 (むしろ私が…) 最後の台詞は、なんだかスゴく悪い顔をしてたけれど。そんな表情にも魅せられていたら… いつの間にかまた、唇を塞がれていた。

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