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⑤
「あ…あのっ…!」
そしたらもう、身体は勝手に動いていて。
「セ、ツ…」
ルーが驚いたよう目を丸くして。
取り巻く女の子達も、しんとしてオレを注視する。
蚊帳の外にいたはずのオレは、気付けばルーの目の前まで来ており。小悪魔な令嬢が抱き付く腕とは反対の腕を、無意識にぎゅっと掴む。
「るっ、ルーは…そのっ、」
自分でも何を言おうとしてるのかが、解らなくて。
でも…
「ルーはっ、オレの……だからっ…!」
“触らないで───────…”
これ以上は耐えられなくて。思わず、本心を口走る。
そうすれば、さっきまで騒いでいた令嬢達もルーファスもみんな、ピシリと固まってしまい…。
その場は一瞬にしてひやりと凍り付いた。
(…しっ、死にたい……)
いくらルーが、女の子にベタベタされたからといって。公衆の面前で叫ぶような台詞じゃないだろ~!!
ああ…やってしまった、そう後悔して俯くけれど。
やらかしたモンは、もうどうしようもないので…
ルーの服を握り締めたまま、途方に暮れるしかない。
こうなったら、ルーの顔を見ることすら怖くなり…
逃げようかなとか、ぐるぐる頭ん中で考えていたら。
「セツ…」
グイと首筋から引き寄せられ、
「るっ…──────んんっ…」
目の前には、ルーの綺麗な顔。
不意打ちに、唇が塞がれる。
しかもそれは、しっかり舌まで絡め…
暫し奪われ続けるものだから…
「はぁ…る、うっ…」
涙でぼやける目で見上げたら。
うっとりとした微笑みで返され…
「すまない、恋人を待たせているので失礼する。」
「え…ちょっ、ルー…」
令嬢達に、はっきりとした口調で告げたかと思えば。オレの手をグイと引いてスタスタと歩き始めるルー。
さっきの小悪魔なコなんて、ものスゴく驚いた顔して立ち尽くしてたけど…
「行こう、セツ。」
「う、うん…」
ルーはそんなことなど、一切お構いも無しに。
その場を後にした。
「ねっ、ルー…待ってって…」
無言で手を引かれ、コンパスの差からオレは息を切らしながら…堪らず声を上げると。
人通りの少ない脇道に連れてこられ、ようやくルーは立ち止まる。
「えと、るっ─────」
もう一度名前を呼ぼうとしたら、遮るよう抱き締められて。不意打ちのそれが、オレの胸をドキリと熱くさせた。
「る、う…?」
「すまなかった…私が曖昧な態度を取ったばかりに…」
泣かせてしまったと、ルーは切なげに告げる。
「べっ、別に…ルーが女の子に強く出れないの、知ってるし…」
気にしてないよと、慌てて言い訳するけど…
「だが、セツは嫌だったのだろう?」
「それはっ…」
…嫌に決まってる。
恋人が他の誰かにベタベタされるのなんか、見たいわけが、ないし。だからって面と向かって言えるほど、自分に自信があるわけでもなく…。
でも結局は、みんなの前であんなみっともなく騒いでしまったものだから…何て答えたらいいのか判らず、言葉に詰まる。
するとルーはオレの両肩にそっと手を添えて…
真顔でじっと見つめてきた。
「セツは、私にどうして欲しい?」
「え…」
オレの心を汲み取るように、まっすぐな眼差しを向けられ。
こんな醜い感情を晒け出すには、抵抗が生じるけれど。オレがルーに思ってたことと同じように、ルーも気遣ってくれようとしてるんだって思うから。
「…お前がモテるのは今更だし、仕方ないことだって解ってるけどっ…」
こんなこと言ったら引かれないかなとか…不安もある。それでも、
「オレの前でっ…女の子に気安く触らせたり、しないで欲しいんだ…」
浅ましい嫉妬だと知りつつ、敢えて正直に我が儘を口にする。
そうしたら、ルーは間もおかずして…
「分かった、お前が嫌なら二度としない。」
躊躇もなく、いとも簡単に受け入れてしまうのだ。
「いいの…?オレすぐヤキモチ妬くし、ルーが思う以上に我が儘だよ?」
なんでもかんでも許してたら、そのうちルーのこと束縛しちゃうかも…って、ちょっと試すようなことを言ってみたり。でも…
「セツにならば、いっそ束縛されてみたいものだな。」
(むしろ私が…)
最後の台詞は、なんだかスゴく悪い顔をしてたけれど。そんな表情にも魅せられていたら…
いつの間にかまた、唇を塞がれていた。
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