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⑥
「さあ戻ろう、セツ。」
「うん…」
手を差し出され、遠慮なく繋いで指を絡める。
ちょっと浮かれ気味に、茂みから帰る道へと戻ると…
「あ~セツ!ヒドイよ~ボクらを置いてくなんて~!」
宮殿の方からやってきたロロ達と、ばったり再会して。
「ふふ、そんなところでふたりして…一体何をしていたのかな?」
「ちがっ…」
…わないので、ついつい真に受け赤面赤してしまい。アシュは笑いを堪えて口元を隠す。
「てかさっきのセツ、思い切ったことしてたなぁ~。」
「ヤキモチ妬くセツ、メチャクチャ可愛かったもんね~ジーナ?」
あれだけ騒いでたら、そりゃ近くにいたみんなにも当然見られていたわけで。
何より年下ふたりに弄られるのは、正直居たたまれない。なのに、
「確かに、可愛いかったな…」
「なっ…なに言ってんの、お前まで…」
更にルーがトドメを刺してくるから。
思わず振り返れば、ルーは思い出すかのよう口元を押さえ赤くなっていた。
どうやらオレに味方はいないらしい…。
「ルーの返しも最高だったね~!」
オレ達が去った後、現場は暫く凍り付いていたらしいのだが…
『な…なんなのよ~私が当て馬とか信じらんない~っ!』
ルーに最も迫っていた令嬢だけは憤慨し、早々に立ち去ったそうで。残されたコ達も、それを皮切りにざわめき始めたものも…
『神子様って、殿方…でしたわよね?華奢でお綺麗な方とは、思ってましたけれど…』
『ルーファス様と神子様って、そういったご関係ですの…?』
…まああれだけ啖呵切って『ルーはオレのモノ』発言しちゃったし。
ルーも堂々とキスして、恋人宣言してたんだから…バレる以前の問題だよね。
「ああ~…ってことは、オレは大勢の女の子達を敵に回しちゃったのか…」
貴族のご令嬢って、虐めとか凄そうだよね…と色々想像しては、項垂れていると。
「その心配は無いんじゃないかな~。」
ロロがあっけらかんとして告げれば、ジーナもウンウンと頷いて。訝しげに首を捻っていたら…
「ふふ…寧ろセツの味方、増えてると思うよ。」
「え、なんで…?」
だって、と勿体ぶるアシュは、なんとも楽しそうに苦笑し。
『私、セツ様なら…受け入れられるかも…』
『私もですわ!なんていうか、こう…?』
“美しき青年神子を恋慕う、美麗守護騎士との禁断の───”
『そうですわ!!皆さんも漸く、その境地に至られたのですね!』
何故かそこで、物陰から颯爽と現わる…フェレスティナの女王アリシア様。
『はぁ…何かに導かれ、こうして馳せ参じてみれば…嗚呼!私もう何も思い残すことはございませんわ~!』
『いえ陛下、まだやるべきことが山ほどあるではありませんか。』
こっそり脱け出したアリシア様に厳しくツッコめるのは、勿論ヴィンしかおらず。
といっても、アリシア様の耳には全く届いていないのだが…
『さあさあ皆様、セツ殿と騎士ルーファスの行く末を温かく見守るご覚悟が整いましたら…是非とも私が主宰します茶会にて、熱く語らいましょう!』
往来で謎の大演説をかます女王様に。乙女達の瞳は、キラキラと輝いて…
もうそのまま朝まで、語り合うような勢いではあったものの。
『そのようなお戯れは、魔王討伐が完了してからにして下さい。』
『まあ、ヴィンたら…またそのような野暮ったい事を。』
そこはヴィンが頑なに無表情を貫いて。
女王様も渋々ながら、嵐のように宮殿へと戻っていったんだそうな。
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