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③
「どっちが勝つかなぁ~。」
練習用の鉄製の剣を手に対峙するふたりから、離れた場所で見守る中。
ロロがウキウキとしながら、そう独り言のように告げると。ジーナがすかさず反応して答える。
「ルーも相当強いけどなぁ~、俺はやっぱオリバーさんかなぁ。」
魔法ありの実戦的な勝負なら、また違ってくるだろうけど。純粋な剣の腕となれば───…と、ジーナは熱く分析してみせる。
オリバーさんが直々にルーを指名した時は、すっごく羨ましそうだったからね。
ジーナはホント良い意味で格闘オタクっていうか…
なんだかんだ、ふたりの試合を純粋に楽しんでいるように見えた。
「所属も違ったし…なかなか見られない対戦だからねぇ。どちらにせよ、良いものが見られると思うよ。」
心なしかアシュも楽しそう。
普段は表に出さないけど、アシュもやっぱり騎士のはしくれっていうか。そういうとこはジーナと同類なんだろうな。
(あー…なんかオレまで緊張してきた…)
いつもルーがジーナ達と行ってるような、和やかな雰囲気とは一変して。緊迫した空気を漂わせる、ルーとオリバーさん。
特級騎士同士…しかも中でもトップクラスを誇るふたりの戦いは、初めて目にするわけだから。
何故だか妙に胸がざわついて、落ち着かない。
「いざ…」
ふたりが剣を構える。
すぐには動かず、互いに機を見定めるよう、微動だにせず対峙する。
そんなふたりの間を、一際強い風が通り抜けて…
「おっ、動いた…」
ジーナが声を発したと同時に、ふたりは地面を蹴っていて。オレはびくりと肩を揺らす。
言われなければ、反応すら儘ならないタイミングだったから…。オレは息吐く間も忘れて、ぎゅっと汗ばむ手を握り締めた。
「さすがだな…」
「オリバー殿こそ…」
ガチャンッと刃と刃が鍔競り合い、剣が弾かれた勢いのまま後方へと飛んで距離を取るルーファス。
たった一撃交わしただけで力量を読み合う彼らは、無意識にも笑みを浮かべている。
「大丈夫、かな…」
いつもは木剣だったけど、今はより実戦向けの重い鉄製の剣を使ってて。切れ味はほぼ無いから、比較的安全だとは聞いてるんだけど…。
素人目には違いが解らず、オレはつい不安を溢す。
「ん-多少怪我はすっかもだけど。あのふたりだし、平気だろ。」
何かあったらセツが治してやればって、ジーナは笑い飛ばすんだけど。そういう問題じゃあない気がする…。
「…始まったね。」
アシュの声にルー達に視線を戻す。
今度は打って変わり、互い連続して剣を繰り出す。
どちらの一撃も、照らし合わせたかのよう防ぎ合い…鈍い金属音が、広い庭園に広がっては共鳴し霧散した。
そんな攻防が暫く続けられると、ふたりの呼吸も弾み、次第に荒く乱れていく。
「更に腕を上げたんじゃないか…」
額に汗を滲ませるオリバーさんを、ルーはじっと見返して。
「これ以上、セツを危険な目には合わせたくないので…」
真剣に応えるルーの台詞が、途切れ途切れにも届き。胸が高鳴る。
「…私も、同感だ。」
告げるオリバーさんは、何処か別の何かに想いを馳せるかのよう視線を僅かに外して。
その姿に、ルーは何を思ったのか…微かに反応見せては口を開いた。
「オリバー殿、貴殿は─────」
その先は声が小さくて、
オレには聞き取れなかったのだけれど。
「私は……を……てる…」
答えるオリバーさんの声もまた、ルーにのみ届くほどのもので。
何を話しているかまでは判らないのだが…
「あ──…やっぱそうだよなぁ…」
代わりに、ジーナは納得したよう呟く。
「だね…僕達だって同じ穴の狢だものね。」
アシュ達には、ふたりの会話が聞こえているのか…
ジーナと目を合わせると、苦笑を浮かべてしまう。
「え、ルー達はなんて言ってんの…?」
気になるから教えて欲しかったのに。
ロロはなんともバツが悪そうに、目を泳がせて。
「さすがに、ボクの口からは言えないかなぁ…」
「そうだね、オリバー隊長個人の問題だし…」
言葉を濁すロロを養護するように。
アシュもごめんねと、オレに苦笑った。
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