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「俺は…」 オリバーさんの返答を聞き、表情を強ばらせるルーは…なんとも感情的な声音を漏らす。 「すまない…」 謝罪を口にするオリバーさんもまた、譲れない何かがあるのか…強く挑戦的な色を、その瞳に宿しているみたいだった。 「あっ…!」 瞬間、ルーが駆け出し…オリバーさんも次いで追うよう走る。 何度か剣を交えた後、距離を取ったかと思えば、ルーが高く飛び頭上から剣を振り下ろすと… 「っ…!」 刃はギリギリ、身体には一切触れてなかったはずなのに。オリバーさんの頬には亀裂が走り…そこから鮮血が飛び散った。 すぐさま仕返して打ち放たれた、オリバーさんの一閃も同様に。ルーの腕を掠め…じわりと赤く袖を、滲ませている。 (なん、だろ…) 最初は普通に、先輩後輩の手合わせって雰囲気だったのに。 今のふたりは、やけに好戦的というか…まるで喧嘩でも始まったような不穏な空気を醸し出していて。 オレは胸騒ぎを覚え… ざわついたそこを、ぎゅっと押さえつける。 「ありゃマジになってんな…」 ぼそりと呟くジーナ。 そう…これはもう、単なる稽古だとか生易しいものではなくなってて…。 現にふたりの剣からは、殺気…とは違うけれど。 魔力に似た闘気のようなモノが放たれているから… (どうして…) ルーもオリバーさんも、ここ最近は互いを妙に意識してるっていうか…。それはルーが、彼をライバル視してたから…だとは思うんだけど。 オレはなんだかこの状況が、無性に悲しくて仕方ない。 だって同じ騎士で、同じ夢を抱いてて。 神子…ううん、オレのためにって、体を張ってまで守ろうとしてくれているふたりなのに、さ…。 オレはルーが好きだし、オリバーさんも人としてとても尊敬してるから…こんなことは望んでないのに。 みんなとオリバーさんなら…すぐに打ち解けられると思ってたんだ。 なのに最もそうあって欲しいふたりが、 まるで敵同士みたいな顔して、剣を握っているから… (やめてよ…) 怖い。 単純に剣と剣がぶつかる音が、戦いへの恐怖心を煽る。こうしてる間にも、ルーとオリバーさんの体には幾つもの傷が刻まれていくから。 もう見てられなくて。 オレは無意識に、地面へと視線を落とす。 そしたら… 「……ジーナ。」 「はいよ。」 オレの異変に気付くアシュが、一歩前に出て。 呼ばれたジーナもすぐに応じ続く。 「あっ…」 ふたりがオレから離れた気配に弾かれ、見上げると。ロロがすかさず大丈夫だよって…笑ってオレの肩を擦ってくれるから。 「スト───ップ!!悪いけど邪魔するぜ。」 「少し冷静になろうか、おふたりさん。」 ジーナがルーの前に、アシュはオリバーさんの間に入り…目配せで、オレの方を示す。 するとルーとオリバーさんもこちらを振り返り… 途端に驚いたように、ふたりはぴしりと固まってしまった。

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