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「うっ…ぇ…」 「セツ、泣かないで…もう怖がらなくていいから…」 ねっ…てロロによしよしされるけれど。 ここ最近で一気に緩みきってしまったオレの涙腺は、すぐには止まらなくて。 子どもみたく泣きじゃくってたら、ルーとオリバーさんが慌ててオレの方へと駆け寄って来た。 「セツ…」 オリバーさんとの勝負に集中するがあまり、オレが何故泣いてるのかが、ルーには解らないようで。 困惑しながら名を呼ぶのだけど…。 「セツは慣れてないからね…君とオリバーさんが、あまりに白熱するものだから、驚いてしまったんだよ。」 さすがのアシュも呆れ気味に、 まるで説教するかのようふたりに告げる。 真相を知ったルー達は互いを見やると、申し訳なさそうに目を泳がせて。オレはなんとか涙を堪えながら、ふたりを見上げ口を開いた。 「ごめっ…なんか圧倒、されちゃって…ふたりとも、喧嘩してるみたいだったから、怖くなって…」 「セツ…」 「セツ殿…」 みんなが心配そうにしてるから、涙を止めようと思うのだけど…。ぼろぼろと、それは意思に反して溢れてしまい途方に暮れる。 「申し訳ありません…ルーファスとの真剣勝負に、つい気が昂り…平常心を欠いてしまいました。」 胸に手を当て平謝りのオリバーさん。 対するルーファスも、やや複雑な表情を浮かべながらも同様に頭を下げてくる。 「すまないセツ、感情に流され我を忘れるとは…騎士として軽率だった…」 「ううん、オレこういうのにっ免疫無かったから…」 鼻をすすりながらも必死で返していると、ふたりは大袈裟なくらい動揺して。何度も何度も頭を下げてくる。 そのオロオロと取り乱すふたりが、騎士団最強クラスの実力者なんだと思えば、なんだか可笑しくなってしまい… 「ぷはっ…もう……心配させないでよね?」 長身の男が揃ってしゅんと、項垂れる姿に堪らず吹き出せば。 「すまない…」 「面目ない…」 謝るタイミングめっちゃ被ってるし…。 なんであんなギスギスしちゃってたかなぁ? 「…じゃあ、ふたりとも手を出して?」 すっかり大人しくなってしまった、ルーとオリバーさんに向け。オレは苦笑しながら、ハイと両手を差し出して。 「オリバーさんもだよ?」 躊躇する彼にもう一度手を示して促せば… ちらりとルーを気にしながらも、おずおずと手を重ねてくれた。 「これから一緒に魔王を倒しに行くのに、傷だらけじゃカッコつかないでしょ。」 告げてオレは、握るふたりの手に意識を集中して…簡単な治癒魔法を施す。 数は多くとも、どれも浅い切り傷程度だったから。 ふたりの傷はあっという間に薄くなっていき、血の跡だけを残して完全に消えていった。 「オレ達は仲間なんだから。もう絶対に…喧嘩なんかしないでね?」 解った?…って念押しすれば、ふたりはまた息ぴったりに。 『ハイ…』 廊下に立たされた子どものように。 ぴしりと背を伸ばして返事した。 「いやぁ~ルーどころか、オリバーさんまで黙らせちゃうとは…」 「まるでご主人様と飼い犬みたいだね~。ふたりとも団で一位二位を争う騎士なのに、ホント形無しだよ~。」 「…てかもうセツが最強なんじゃね?」 外野の3人は、楽しそうに勝手なことばかり言い始めたので…オレははぁ~と大袈裟に溜め息を漏らす。 ルーはそんなオレを気にして、チラチラこっちを見てくるから。意地悪く笑って、えいっと肘で小突いてやったら…また申し訳なさそうに、項垂れてしまった。 「オリバーさん、次は俺と勝負して下さいよ~!」 ジーナが場の空気を払拭するよう、オリバーさんの手を引き。目が合ったら目配せされて…オレもありがとうと笑顔だけで返す。 「セツ…」 みんなより数歩後ろに立ち、オレはルーの手をこっそり握り締めて。 「不安になったら、ちゃんと言って…?」 オレは何度でも応えるから。 見上げたら、なんでかルーは泣きそうなくらい切なげに目を細めていたけど…。 「ああ…」 短く一言だけ。 代わりにオレの手を強く握り返していた。

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