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「セツ、アリシア様がお見えになられたから…」 「あ…うん。オリバーさん、また後で…」 「はい…また後ほど。」 ルーに呼ばれたので、オリバーさんに挨拶し。 騎士さん達が一様に注目する場所へと向かうと…。 「セツ殿、早朝からご苦労様です。」 「おはようございます、アリシア様。」 まだ日の出を迎えたばかりだというのに、アリシア様がわざわざ見送りに来てくれて。差し出された手を、オレは両手で丁寧に包み込む。 「いよいよですわね…私は共に参る事が叶いませんが…。」 実は今回も一緒に行くと、最後まで言い張っていたらしいけど…。 一国の女王がおいそれと危険な地に赴くのは、そう簡単なことではなくて。結局は宰相さん達に全力で反対されたのだと、アリシア様は歯痒そうに笑う。 「この地で、セツ殿の無事を願っておりますから。」 ご武運を…と、祈るように手を握られて。 オレも応えて強く頷く。 「皆も…セツ殿を全身全霊で守護し、無事フェレスティナへ戻って来れるよう尽力なさい。」 アリシア様が騎士さん達に向け激励すると、野太い歓声が上がる。と… 「セツ殿からも是非、皆にひと言頂けませんか?」 「ええっ…おっオレも、ですか?」 いきなりアリシア様に振られ、狼狽える。 こんな人前で、しかもアリシア様の後とかちょっと無茶振りなんですけど…。 でももう、みんな静まり返ってオレに注目しちゃってるし。どうしようかとオロオロしていたら… 「大丈夫…セツ殿の言葉で、皆を励まして頂けたら良いので。」 そんなに畏まらなくて良いですよと、アリシア様に耳打ちされるので。 オレは改めて騎士さん達の方を見やれば、ルー達と目が合い。みんなは笑顔で頷いてくれたから…深呼吸して、オレはゆっくりと口を開いた。 「えっと…最初は、オレなんかが神子で良いのかなとか、すごく不安だったんですけど…」 男だし…ヘタレだったから彼女にも振られ、内定も失ってダメダメな人生だったけど。 ルー達に見守られながら、なんとか治癒魔法も扱えるようになったし…こうして今、魔族と決着の時を迎えるところまでやって来れた。 そんな大役を担えるような自信も実感も、ホントはまだまだ足りないんだけど… 「みんなが余所者のオレに、仲間として優しくしてくれて…今のオレがあるから…」 恩返しじゃないけど。 オレに出来ることで報いたい。なら、 「だから、そのために…皆さんの力をオレに貸して下さい!」 お願いしますと、 拙いながら精一杯の想いを込め、頭を下げたなら。 「当然だろ?俺達は神子の為に在る、特級騎士団なんだからな?」 なあ?と大きな声で、騎士団を促すのはジーナ。 「ボクもボクも~!セツのためなら何だってしちゃうよ~!」 ロロも習って拳を掲げれば。 騎士さん達も賛同して次々に応えてくれる。 気になって、ルーの方をちらりと盗み見たら… 静かに、けれど温かく微笑み返してくれたから。 良かった…のかな、コレで…。

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