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「セツにとっては、初めての遠出になるな。」 「うん。だからちょっと楽しみでもあるんだよね~。」 不謹慎だけど、郊外に出たのって神淵の森と孤児院だけだったからね。フェレスティナ以外の街も初めてだから、何気にワクワクしてたり。 それが顔に駄々漏れだったようで… 隣に座るルーファスは、くすりと笑って頭を撫でてくる。 「私も楽しみだ。」 セツと一緒だから、と。 ルーはオレに合わせ無邪気に笑う。 それこそオレもだよって言いたかったけど…目の前にはロロとジーナがいるので。 またノロケだなんだと、弄られたくないから。そこはぐっと堪えておいた。 「しっかし馬車で移動とか退屈だよなぁ~。俺も馬が良かったな~…」 今回は時間が限られているので。騎士団は騎馬に乗り、オレ達は馬車に乗って移動している。 ジーナは騎馬の方が、性に合ってるんだろうけど。 守護騎士故に、神子の傍にいなければならないので…こうして馬車に乗ってるんだが。 一時間も経たない内から、欠伸や背伸びをしては退屈だなんだとぼやいていた。 確かに暇ではあるけども…快適に連れて行って貰えるだけでもありがたいと思わなくちゃ。 騎馬といえば、ジーナの後ろに乗った時は散々な目に合ったからね。 ルーと一緒なら、それも悪くないかなぁ~…なんてことは。少しだけ思ったりもした。 「街道沿いじゃあ、魔物もあんまり襲ってこないからね~。」 若いふたりは体力が有り余っているのか、ロロも随分と物騒なことを口走るし…。 オレとしては穏便に、何事も無く進んで欲しいところなんだけどなぁ。年少組は早くも飽きてきたのか、不満そうにするけれど。 「お前達は守護騎士だろう?いつ何時、セツに危険が及ぶかも判らないのだから。」 気を抜くんじゃないと、ルーが静かに諌めると… ふたりはバツが悪そうにしながらも、素直にごめんなさいと頭を下げた。 「まあまあ、そんな堅苦しくしてても疲れちゃうからさ。」 気楽にいこうよと、場を和ませようと口を挟む。 「だが…」 魔族は油断ならないからと、渋い顔をするルー。 そりゃ魔族には、今まで散々な目に合わされてきたから。その気持ちも解らなくはないけど。 「魔物は仕方ないけど、魔族…少なくともラルゴは嘘を吐くタイプじゃないと思うけどなぁ。」 ムーバに比べたら、ジークリッドも戦闘狂ってだけで、そこまで絶対悪!なイメージでもなかったけど。 アイツには一度襲われてるし、ルーも殺されかけたから…受け入れるには抵抗が生じるわけで。 それでもラルゴだけは、粗暴な印象はあるものの。 卑怯な手だったり騙し討ちだとか…そういうのを嫌ってる風ではあったから。 あの魔族だけは、少しくらい信用してもいいんじゃないかなって思うんだ。 「確かにな。アイツは好戦的だけど、誰彼構わずってよりは…単純に、強い奴と戦うのが好きなだけって感じするし。」 「そそ、ジーナと似てるよね~。」 一度戦ったことのあるジーナの言葉に、ロロはアハハと笑い飛ばす。ルーも顎に指を当てて頷きながら、 「我々を謀るにせよ、わざわざ危険を犯してまで敵地に赴く理由にはならないしな…」 それでも用心に越したことはないと告げ、年少組も賛同してハーイと返事して応えた。 ルーの言うことは最もだけど。 オレとしては、街まで平和に辿り着くことを…願うばかりである。

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