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「わ…メチャクチャ綺麗だなぁ…」 暫くは食べることに夢中だったんだけど。 お腹も満たされてきた頃合いに、ふと見上げた先の空を目に…感嘆する。 街道の外れ、夜営を構えたその場所から見上げた星空は…視界いっぱいに広がっていて。 澄んだ空気が、それをより美しく輝かせていた。 「やっぱこの世界は、空気も自然も綺麗だよね…」 「セツの世界は違うのですか?」 ヴィンが興味深げに尋ねるので、オレはう~んと曖昧な返事をする。 全部が全部とは言わない、地球にだって美しい自然は沢山あるだろうし。…といっても、オレはそれらを実際に見てきたわけじゃないし。 この国に比べたら、自然破壊とか温暖化とか… 色々と問題も多いのが現実だったからね…。 「…なるほど。セツの世界も平穏無事とはいかないわけですね。」 「この世界に比べたら、平和ボケしてるだろうけど。戦争だとか、身勝手な人間は何処にでも…少なからずいるからね。」 改めて空に視線を馳せる。 月明かりはほんのりと、柔らかな光を灯して。 湿度は若干高い気もするけど、夜風はまだ少し冷たく、そよそよと髪を薙いで通り過ぎるから…。 寝起きには丁度いいなぁと、 目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰り返した。 「あ、みんなは寝ないの?」 「ああ、今から交代で休憩を回していくから…」 馬も休めなきゃだし、徹夜で進む方が非効率なので。 短時間ではあるものの、騎士団は見張り役とに別れ交代で仮眠を取るのだそう。 だからルー達も、それに合わせるらしい。 「そっか…オレはずっと寝てたからなぁ…」 目が冴えちゃったし…手持ち無沙汰に呟いたら。 「なら私ももう少し起きていよう。」 「え…いーよ、ルーだって寝なきゃキツイだろ?」 なのにルーはオレを気遣ってか、そう返しても改めることはなく。 (単に私が、セツの傍にいたいだけだから…) なんて甘い言葉を、こっそり耳打ちしてくるもんだから… 「っ…ルーが、いいなら…」 オレもその方が嬉しいし…って、照れ臭いから言わないけど。 「なら、俺らは先に休ませてもらおうぜ~。」 そうジーナはロロを引き連れ、馬車の中へと戻っていった。 「なんか良いね、こういうのも…」 オレは神子として丁重に扱われているから、遠征と云っても何不自由なく快適にさせて貰ってるけど。 「この世界に来て2ヶ月以上経つのにさ、オレは外の世界を殆ど知らないから…。」 目的は魔王を倒して平穏を手にすること。 それなのに、ちょっとだけワクワクしている自分がいる。 みんなでキャンプみたく屋外で焚き火を囲んだり。 他愛ない話で盛り上がったり…それだけで楽しいっていうか。 修学旅行のノリで良いよね、男同士だから気を遣わなくていいし。 「セツは素直だねぇ~。」 「はは、不謹慎だとは思うけどね~。」 アシュにクスクスと笑われ、オレも頭を掻いて苦笑うけども。 「私はそうは思いません。遠征中だからと云って常に気を張り詰めていては、身も心も保てませんから。」 息抜きも必要ですよと、オリバーさんはオレを優しい眼差しで以て肯定してくれる。 「団長のオリバーさんがそう言ってくれるなら、救われます。」 ふにゃりと微笑み返せば、彼は照れ臭そうにはにかみ。ルーは何故か咳払いを溢していた。 (楽しいことばかりじゃない、けど…) もう何度も危険な目に合ってきたからこそ。 束の間の、なんてことない時間が愛おしくて堪らない。 それこそ一度、大切な人を失った絶望を。知ってしまったから…でもあるけど。 良くも悪くもこの感情は、この世界に来て実感出来たものだから。 夜空をぼんやり眺めながら物思いに耽っていると。 ルーがそっとオレの手に触れて。 じわりと伝わる熱に、この上ない多幸感で満たされる。 (このまま…) 穏やかな瞬間がずっと続けばいいのに。 そんなことを星に願いながら… オレは少しだけ、ルーの腕に体を預けていた。

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