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③
(なっ…に……)
息が出来ない…
口をパクパクさせると、粘液が容赦なく流れ込んでしまい…ごふりと噎せ、意識が犯されていく。
突然のことで頭の中はパニック、無我夢中で踠くけれど。ソレにより全て包み込まれた身体は、プカプカと水中で溺れているかのような状態だったから…。
残念ながら声も出せず、意識も既に遠退きそうになっていたのだけれど…
「セ───…ジーナ、ロロ、スライムだっ…!!」
「任せろ!」
「了解!」
バンッと勢い良く扉が開く音と共に、ルーが叫びながら飛び出してきて。
年少組も弾かれたよう、応えて外へと躍り出る。
「セツを焼かないでよ、ジーナ!」
「んなヘマすっかよ!」
言ってジーナとロロは掌に魔力を溜め、瞬時に炎を纏わせる。
「ちょっと熱いけど我慢してくれよ?」
ジーナがその燃える手を、オレを取り込む粘液に向け繰り出すと…ジュッと蒸発するような音が微かに聞こえて。
「っ…はッ…ごほっ…ごほっ…!」
「セツ…!!」
次にはソレを炎で消し去り…オレの身体は宙に投げ出されるものの。すかさずルーが駆け寄り抱き留めてくれた。
「こっちのも倒したよ~。」
「まさかスライムがいるとは…厄介なのに出会しちまったなぁ~。」
オレを襲って来た魔物…スライムは、他にも数匹潜んでいたようで。漏れなくロロとジーナが炎で焼き尽くしていく。
「ごほっ…はぁッ…」
「セツ、落ち着いて…ゆっくり呼吸をするんだ。」
ルーに支えられぼんやりする頭で、なんとか呼吸を整える。
口の中までスライムの粘液が入ってきたからか…息苦しいよりも気持ち悪いのが、勝っているような気がした。
「すまない、気付くのが遅れてしまった…」
「ッ……へーきっ…」
介抱するルーは、申し訳なさそうにオレを見下ろしてて。オレは咳き込みながらも、なんとか返事をしてみせる。
「セツ殿っ…!」
「セツ、大丈夫かい…?」
オリバーさんとアシュ、それにヴィンも心配そうにしてやって来たから。
「んっ…オレは…だいじょーぶ、だよ…」
『…!!』
へたり込んだまま、顔を上げ答えると…何故だか全員そこで固まってしまい。
スライムでぼやける視界で、首を傾げるのだが…
「セ、ツ…」
ロロとジーナまで同様に…寧ろ真っ赤な顔して食い入るようにしながら、じ~っと見てくるもんだから。
…なんだろ?
もしかして怪我でもしてんのかな、オレ…
「なっ…に…?」
オレを見下ろすアシュ達に問い掛けても反応が無く、戸惑っていると。
「セツのそれ、キスマ────」
「はいはーい、子どもは見ちゃダメだよ~。」
ロロが何か言い掛けた瞬間、アシュがそれを遮って…
「もう、なにするのアシュ~全然見えないよ~!」
「おわっ…ちょ、離せって…」
いち早く正気を取り戻したアシュが、すかさずロロとジーナの顔を塞ぎ…ズルズルと小屋の中へと引き摺って行き。
いつの間にかタオルを手にしたヴィンは、それをルーに向け投げて寄越すと…
「ルーファス、後は頼みましたよ?オリバーさん、とりあえず我々は中で待機しましょう。」
「あ、ああっ…そうだな…」
告げるや否や、固まったままのオリバーさんを促し。アシュに続いて足早に小屋へと行ってしまったから。
…一体、どうしたっていうんだ…?
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