299 / 423
③
「ヴィンは忙しそうだからね。言伝をお願いしておこうか。」
アシュが給仕する青年にヴィンへの伝言を頼み。
オレとルー、ロロとジーナ、それからアシュとオリバーさんと共に街へと向かう。
高台にある施設からしばらく下って行くと、直ぐに賑わう繁華街が広がり。
ルーが言ってた通り、良く見ると人間以外の種族も沢山歩いていて。
その神秘的な光景に、オレはぽかんと口を開けたまま…暫し心奪われてしまった。
「ほんとにいるんだなぁ…」
物珍しそうに見るのは失礼だろうから。
なるべく目立たぬよう、こっそりと辺りを見渡すと…。
耳やしっぽが生えた半獣人族や、耳の尖ったエルフっぽい人まで様々と…なんだか不思議な気分になる。
城下にも、他種族民がいないわけじゃないんだけど…首都ともなると入国のためのチェックが、他所より若干厳しいそうなので。それほど多くはないらしい。
だからこうして目の当たりにするのは、初めてだったもんだから。本当にここは異世界なんだなぁと、改めて痛感させられた。
「セツ…夢中になり過ぎて、あまり離れないようにな。」
「あ、うんっ…」
オレの腕を引き寄せたルーは、ぽんと頭に触れて。
髪の乱れを指で丁寧に整えてくれる。
…といっても、それはオレ特有の黒髪ではなく。
アリシア様が用意してくれた、あの銀髪のカツラなんだが。こうして街に出なかったら、使う機会もなかっただろうし。
非常時にワガママ言っちゃったけど。
これはこれで良かったんじゃないかなって、前向きに考える。
「港街は人の出入りが激しいからな~。セツは危なっかしいし、ルーに手ぇ繋いでもらっといた方が良いんじゃねぇの?」
迷子になんぞ~とジーナにからかわれて、ついムッと頬を膨らませる。
「なっ、オレはそんな子どもじゃないしっ…」
年下のクセに~…悔しいから反論しようとすんだけど、
「それもそうだな…」
ルーは妙案だと感心して、早速オレの手を握り締めてくるから。
「いやいや、そこまでしなくてもっ…」
さすがに遣り過ぎだし、人前でとか単純に恥ずかしいもんだから…遠慮するんだけども。
「嫌か…?これならば、セツも安心して見て回れると思ったのだが…」
途端にルーが残念そうな目で見られると、ついオレも絆されてしまうから…
「わ、分かったよ…無理に連れて来てもらってるわけだし…。」
みんなや周囲の視線は気になるけど、手を繋ぎたくないわけではないので…。
建前では仕方なく、受け入れることにした。
ともだちにシェアしよう!